微分関係の定理では標記のような条件がつく.
たとえば,平均値の定理
$f(x)$が閉区間$[a,\ b]$で連続,開区間$(a,\ b)$で微分可能なら,
$\frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c)$ ただし,$a\lt c\lt b$
となる,実数$c$が少なくともひとつ存在する.
まぁ言っていることは左辺は,$a$から$b$にかけての平均の傾き.
その平均の傾きと同じになる関数上の点があるよ.ということ
絵に描くと,

で,$a$,$b$ は曲線を切る直線の切り口の $x$座標 で,その直線の傾きと同じになる接線があるよ.
ということで,直感的にはあったりまえのこと.
その当たり前のことをいう条件が,
「閉区間$[a,\ b]$で連続,開区間$(a,\ b)$で微分可能」
で,これが平均値の定理の条件となる.
もちろん区間の中に不連続な点があったり,滑らかでない(微分可能でない)点があったりしたら,平均の傾きと同じ傾きの場所をなくすのは簡単である.
問題は端の点を含むか含まないかという微妙な議論.
閉区間$[a,\ b]$とは「$a$以上,$b$以下」つまりイコールつきの不等号で,「$a\le x\le b$」と表され,端点を区間に含む.
開区間$(a,\ b)$とは「$a$を超え,$b$未満」つまりイコールなしの不等号で,「$a\lt x\lt b$」と表され,端点を区間に含まない.
だから,条件を言い換えると
「端を含めて連続(つながってること),端を含めず微分可能(傾きがある)」
ということになる.
端を含もうが含むまいが大勢に影響はないし,平均値の定理は端点で傾きがある(微分可能)には越したことがない.しかし,傾きが無くても(微分できなくても),成り立つ定理といえる.
微分可能な条件が端点を含む必要がないのは,平均の傾きと同じ傾きの場所が「区間の間にある」と言っているからである.($a\lt c\lt b$)
しかし,普通の関数の絵を考えると,端点で微分不可能な状況をつくるのは無理で,上の絵は「閉区間でも微分可能」な絵である.
とうことで,端点で傾きが無い(微分が無い)関数で,平均値の定理を作ってみようと思う.
たとえば,円の上半分の関数を考える.
$f(x)=\sqrt{1-x^2}$
原点を中心とする半径1の円の上半分.
円なので,どこでも接線がひける.

ということはどこでも傾きがある(微分可能)かな?
そうは問屋が卸さない.
端の点では,接線が垂直になる.
垂直な直線の「傾きは無い」.
微分係数は傾きのことだから,傾きが無い以上「微分可能ではない」といえる.
実際,微分の定義に従って,$-1$や$1$のときの微分係数(傾き)を計算すると,無限大に発散してしまい,極限=微分係数 が存在しないから「微分可能でない」
ところが,端の点を区間に入れて,「傾きの平均」を考えると,
「その平均の傾きと同じになる関数上の点がある.」
ことがわかる.実際次のような絵の状態.

端の点 $x=-1$ では傾きは無い(微分できない)が,
「その平均の傾きと同じになる関数上の点がある.」
という状態になっている.
端点で微分できないからといって,平均値の定理から排除する理由は無い.
したがって,
「端を含めてつながって,端を含めず傾きがある」
という条件にし,それを専門用語で,
「閉区間で連続,開区間で微分可能」
と表現する.
さて,「微分可能」とは「なめらか」ということでもある.(円は滑らかだが,傾きという意味で微分が存在しない点がある)
滑らかでない関数の例としては,絶対値の関数.
$g(x)=|x|$

原点で微分可能ではない.(微分の定義において,左極限と右極限は一致せず,傾きが特定できない)
これの,$-1$ から $1$ にかけての平均の傾きは$0$.
でも,見ての通り,関数上に傾き$0$になる場所はないから,連続でも区間内に傾きが特定できない場所(微分可能でない場所)があると,平均値の定理は成り立たない例である.
しかし,$0$ から $1$ にかけての平均の傾きは$1$ で,関数上のその傾きはその区間全体にわたる.
つまり,端の点で微分可能ではなくても,平均値の定理は成り立つ例となる.