2007年8月19日日曜日

閉区間で連続,開区間で微分可能

微分関係の定理では標記のような条件がつく.
たとえば,平均値の定理
$f(x)$が閉区間$[a,\ b]$で連続,開区間$(a,\ b)$で微分可能なら,
$\frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c)$  ただし,$a\lt c\lt b$
となる,実数$c$が少なくともひとつ存在する.

まぁ言っていることは左辺は,$a$から$b$にかけての平均の傾き.
その平均の傾きと同じになる関数上の点があるよ.ということ
絵に描くと,
Mean value theorem
で,$a$,$b$ は曲線を切る直線の切り口の $x$座標 で,その直線の傾きと同じになる接線があるよ.
ということで,直感的にはあったりまえのこと.

その当たり前のことをいう条件が,
「閉区間$[a,\ b]$で連続,開区間$(a,\ b)$で微分可能」
で,これが平均値の定理の条件となる.

もちろん区間の中に不連続な点があったり,滑らかでない(微分可能でない)点があったりしたら,平均の傾きと同じ傾きの場所をなくすのは簡単である.
問題は端の点を含むか含まないかという微妙な議論.

閉区間$[a,\ b]$とは「$a$以上,$b$以下」つまりイコールつきの不等号で,「$a\le x\le b$」と表され,端点を区間に含む.
開区間$(a,\ b)$とは「$a$を超え,$b$未満」つまりイコールなしの不等号で,「$a\lt x\lt b$」と表され,端点を区間に含まない.
だから,条件を言い換えると
「端を含めて連続(つながってること),端を含めず微分可能(傾きがある)」
ということになる.
端を含もうが含むまいが大勢に影響はないし,平均値の定理は端点で傾きがある(微分可能)には越したことがない.しかし,傾きが無くても(微分できなくても),成り立つ定理といえる.

微分可能な条件が端点を含む必要がないのは,平均の傾きと同じ傾きの場所が「区間の間にある」と言っているからである.($a\lt c\lt b$)
しかし,普通の関数の絵を考えると,端点で微分不可能な状況をつくるのは無理で,上の絵は「閉区間でも微分可能」な絵である.

とうことで,端点で傾きが無い(微分が無い)関数で,平均値の定理を作ってみようと思う.


たとえば,円の上半分の関数を考える.
$f(x)=\sqrt{1-x^2}$
原点を中心とする半径1の円の上半分.
円なので,どこでも接線がひける.
mean value of circle
ということはどこでも傾きがある(微分可能)かな?

そうは問屋が卸さない.
端の点では,接線が垂直になる.
垂直な直線の「傾きは無い」.
微分係数は傾きのことだから,傾きが無い以上「微分可能ではない」といえる.
実際,微分の定義に従って,$-1$や$1$のときの微分係数(傾き)を計算すると,無限大に発散してしまい,極限=微分係数 が存在しないから「微分可能でない」

ところが,端の点を区間に入れて,「傾きの平均」を考えると,
「その平均の傾きと同じになる関数上の点がある.」
ことがわかる.実際次のような絵の状態.
mean value of cirlce
端の点 $x=-1$ では傾きは無い(微分できない)が,
「その平均の傾きと同じになる関数上の点がある.」
という状態になっている.端点で微分できないからといって,平均値の定理から排除する理由は無い
したがって,
「端を含めてつながって,端を含めず傾きがある」
という条件にし,それを専門用語で,
「閉区間で連続,開区間で微分可能」
と表現する.

さて,「微分可能」とは「なめらか」ということでもある.(円は滑らかだが,傾きという意味で微分が存在しない点がある)

滑らかでない関数の例としては,絶対値の関数.
$g(x)=|x|$
undifferentiable
原点で微分可能ではない.(微分の定義において,左極限と右極限は一致せず,傾きが特定できない)

これの,$-1$ から $1$ にかけての平均の傾きは$0$.
でも,見ての通り,関数上に傾き$0$になる場所はないから,連続でも区間内に傾きが特定できない場所(微分可能でない場所)があると,平均値の定理は成り立たない例である.

しかし,$0$ から $1$ にかけての平均の傾きは$1$ で,関数上のその傾きはその区間全体にわたる.
つまり,端の点で微分可能ではなくても,平均値の定理は成り立つ例となる.

9 件のコメント:

  1. 素晴らしいですね。正に自分が今疑問に思ってググってる内容でしたので大変為になりました。分かりやすかったです。

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  2. コメントありがとうございます.お役に立てて何よりです.
    何か疑問があったら,お知らせください.すぐに解決してさしあげます(w
    これは,2002年ころまで勤務した進学校の授業で扱っていたものです.
    最大値の定理や中間値の定理も「ちゃんと」証明した.

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  3. ものすごくわかりやすいです!!助かりました。ありがとうございます!

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  4. コメントありがとうございます.
    他にも,√x の原点とか,サイクロイドなども,端点で連続かつ微分不可能にできます.

    「わかりやすく」ってのを仕事にしているもので・・・
    「簡潔さ」と「わかりやすさ」は別問題ですね.

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  5. 助かりました
    記述のときは自分で閉区間、開区間を述べないと減点されますか?

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  6. >減点されますか?

    と聞かれたら,「減点します.」と答えます.
    実際は,テストを受けた集団によるとしかいえない.

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  7. 開区間で微分可能であるという表現に関する説明に対する質問です.ある点で微分可能であるというのは,その点の十分小さな近傍でその関数を一次近似できるという意味(少々雑)なので,関数の定義域の内点全体で定義されるのではないですか.つまり,平均値の定理の主張を考えることにより開区間で微分可能であるという表現を用いるという
    よりかは,数学一般の文脈として微分可能というのは開区間(より一般には開集合)で定義されるという説明のほうが適切だと思うのですが,いかがでしょう.

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    1. そのほうがすっきりしてい良いですね.
      ただ,高校の教科書でそのような表現をしたら,検定は通らない.
      この記事は,高校の教科書の記述についてなので.

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    2. 返信ありがとうございます。検定の壁、難しいですよね。私はアルバイトで中高生に数学を教えているのですが、数学的な厳密さと中高生にとっての分かりやすさのバランスのとり方にいつも悩まされています。そんななか、くろべえさんの過去の記事をしばしば参考にさせていただいております。ありがとうございます。

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