ブレーキの性能はディスクの方が上であるため,レーシングカーにはディスクブレーキが使われている.
しかし,絶対的な制動力はドラムブレーキが上なのである.>ブレーキのメカニズム
現代の車やレーシングカーはすべてディスクなので,ディスクの方が制動力が上だと勘違いされることは多い.
つまり,「ブレーキの性能は制動力ではない」ことがわかる.
制動力の強さとは,「いかに軽い力で強い制動がかかるか」という意味になる.
ドラムブレーキの構造を見るとわかるが,回転するドラムの内側にブレーキの接触面があり,その全長は円周方向の7~8割にも及ぶ.
回転する円盤のごく一部分にしか接触面のないディスクブレーキより,当然弱い力で強くブレーキがかかる.さらにドラムブレーキには「サーボ効果(自己倍力効果)」と呼ばれるドラムに食い込む(引きこまれる)力が発生し,自然により強い力でドラムを押さえつけ,強い制動力を生み出す.
ドラムブレーキはカタログに,「リーディング・トレーリング」などと書かれる.リーディング側が回転に逆らう方向にブレーキが働き,サーボ効果が期待できる.
四輪車ではバックするときに,制動力が変わると困るので,「リーディング・トレーリング」を採用する.バックするときは,リーディングとトレーリングのシューの働きが逆になり,バックでも同じ制動力が得られるからである.
バックする必要のない二輪車の場合,「リーディング・リーディング」というものもある.ブレーキシュー2枚ともサーボ効果が期待できる.
大型バスやトラックのブレーキがドラムブレーキなのは,その「制動力」が必要だからであるが,制動力のあるドラムブレーキがなぜレーシングカーに使われないか.
放熱の問題?
それもあるが,実はもっと根源的な問題がある.
まず,どんなに制動力を上げても,タイヤがロックする限界点は変わらないということ.
ロックとはタイヤと路面の摩擦力の限界を超えて,タイヤが路面上を滑ることだが,これは「タイヤと路面との関係」だけで決まる限界点なので,ブレーキの方式とは関係がない.
ドラムブレーキもディスクブレーキも,ロックの限界点は同じである.どちらもブレーキを強くかければ,タイヤをロックさせるのに十分な性能を持っている.
結局,最終的に絶対的な制動力を上げるには,タイヤの性能を上げるしかないのである.
では,なぜレーシングカーはドラムではなく,ディスクか?
それはロック限界点でのブレーキの操作性である.
ドラムブレーキは弱い力で,簡単にロック限界点まで達する.それ以上にサーボ効果で,ペダルの油圧以上に制動力が上がり,それがドラムブレーキの利点であった.
四輪車のディスクブレーキでもモーターの負圧を利用した倍力装置があるから,弱い力で簡単にロック限界点まで達する.((倍力装置の働きは体験できる.車を止めアイドリング状態から,モーターを止める.その後ブレーキペダルを何度も踏みつけると,次第に同じ力で奥まで踏み込めなくなる.モーターの負圧が無くなり,倍力装置が切れるのである.その状態が倍力のない,本来のディスクブレーキの動作性能である.))
さて,レースではタイヤのロックは,コントロールを失ったり制動距離が伸びるので,ぎりぎりで力を抜きロックを回避する.
しかし,ドラムブレーキはサーボ効果でそのままロックしてしまうのだ.そしてサーボ効果で引き込まれたロックを解除するには,完全開放しかない.
ディスクブレーキにはもともとサーボ効果は無いので,じわっと力を抜くだけでロックを回避できる.
つまりドラム式のサーボ効果は,制動力を上げると共に,ロック限界点付近でのコントロール性を落としてしまうわけである.これは常にロック限界を攻めるレースでは致命的である.そもそもロック限界をコントロールするABSでは使えないのである.
二輪の場合,ロックすると転倒につながりかねないので,レースでのドラムブレーキはありえない.
しかし,車と違って倍力がつけられない二輪車のディスクブレーキにはかなり力が要る.このためお仕事モーターバイク(スーパーカブなど)はドラムブレーキにして運転者の負担を減らしている.
それから旧いスタイルのモーターバイクはドラムが似合う.どんなにクラシカルなデザインに仕上げても,ブレーキディスクがピカピカ光っているようでは,雰囲気が台無しである.ここはやはりドラムブレーキのレトロな雰囲気がほしい.ロイヤルエンフィールドももちろんドラムブレーキ.かっこいい!
このほかにもちろん,放熱の問題もあるわけだ.ルマン24の夜間走行を見ると,コーナー手前でホイールの中でディスクが赤く光るのが見える.
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