2007年5月1日火曜日

本日の質問

大学生になった卒業生が数学の質問を持ってきた.

$\frac{{\ }_{n}\mathrm{C}{\ }_{r}}{n^r}\lt\frac{{\ }_{n+1}\mathrm{C}{\ }_{r}}{(n+1)^r}$
の証明
帰納法でやってもうまくいかないという.

どこかで見たことがあるなと思ったら,数列
$\left(1+\frac{1}{n}\right)^n$
が単調に増加することを証明するのに使う式だった.これは地道にやるだけでうまい方法はないんじゃないかなと,次の方法.

(証明)
$\frac{{\ }_{n}\mathrm{C}{\ }_{r}}{n^r}=\frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-r+1)}{r!}\cdot\frac{1}{n^r}$
$=\frac{1}{r!}\cdot\frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-r+1)}{n^r}$
$=\frac{1}{r!}\cdot\frac{n}{n}\cdot\frac{n-1}{n}\cdot\frac{n-2}{n}\cdots\frac{n-r+1}{n}$
$=\frac{1}{r!}\cdot 1\cdot(1-\frac{1}{n})(1-\frac{2}{n})\cdots(1-\frac{r-1}{n})$

同様に
$\frac{{\ }_{n+1}\mathrm{C}{\ }_{r}}{(n+1)^r}=\frac{(n+1)(n)(n-1)\cdots(n+1-r+1)}{r!}\cdot\frac{1}{(n+1)^r}$
$=\frac{1}{r!}\cdot 1\cdot(1-\frac{1}{n+1})(1-\frac{2}{n+1})\cdots(1-\frac{r-1}{n+1})$

この両者,カッコの外は同じであるから,違いはカッコの中だけ.
それぞれのカッコについて,
$n\lt n+1$
より
$\gt\frac{1}{n+1}$
$\gt\frac{2}{n+1}$
$\gt\frac{3}{n+1}$
・・・
$\gt\frac{r-1}{n+1}$
符号を変えれば,
$-\frac{1}{n}\lt -\frac{1}{n+1}$
$-\frac{2}{n}\lt -\frac{2}{n+1}$
$-\frac{3}{n}\lt -\frac{3}{n+1}$
・・・
$-\frac{r-1}{n}\lt -\frac{r-1}{n+1}$
よって
$1-\frac{1}{n}\lt 1-\frac{1}{n+1}$
$1-\frac{2}{n}\lt 1-\frac{2}{n+1}$
$1-\frac{3}{n}\lt 1-\frac{3}{n+1}$
・・・
$1-\frac{r-1}{n}\lt 1-\frac{r-1}{n+1}$
ということは,すべてのカッコについて,
$\frac{{\ }_{n+1}\mathrm{C}{\ }_{r}}{(n+1)^r}$
の方が大といえるから,不等式が成り立つ.(証明終わり)


これを使って,数列
$a_{n}=\left(1+\frac{1}{n}\right)^n$
が単調に増加するといえる.

$a_{n}=\left(1+\frac{1}{n}\right)^n$
$=1+{\ }_n\mathrm{C}{\ }_{1}\frac{1}{n}+{\ }_n\mathrm{C}{\ }_{2}\frac{1}{n^2}+\cdots$
$+ {\ }_n\mathrm{C}{\ }_{r}\frac{1}{n^r}+\cdots+ {\ }_n\mathrm{C}{\ }_{n}\frac{1}{n^n}$
同様に
$a_{n+1}=\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^n$
$=1+{\ }_{n+1}\mathrm{C}{\ }_{1}\frac{1}{n+1}+{\ }_{n+1}\mathrm{C}{\ }_{2}\frac{1}{(n+1)^2}+\cdots $
$+{\ }_{n+1}\mathrm{C}{\ }_{r}\frac{1}{(n+1)^r}+\cdots+ {\ }_{n+1}\mathrm{C}{\ }_{n}\frac{1}{(n+1)^n}+{\ }_{n+1}\mathrm{C}{\ }_{n+1}\frac{1}{(n+1)^(n+1)}$
各項は,質問された不等式によって$a_{n+1}$の方が大きく,さらに項がひとつ多いので,この数列は $n$の増加によって大きくなり続ける単調増加数列であることがわかる.(1)

さらに,この数列は
$(1+\frac{1}{n})^n$
$=1+{\ }_n\mathrm{C}{\ }_{1}\frac{1}{n}+{\ }_n\mathrm{C}{\ }_{2}\frac{1}{n^2}+{\ }_n\mathrm{C}{\ }_{3}\frac{1}{n^3}+\cdots+{\ }_n\mathrm{C}{\ }_{r}\frac{1}{n^r}+\cdots$
$=1+n\frac{1}{n}+\frac{n(n-1)}{2}\frac{1}{n^2}+\frac{n(n-1)(n-1)}{3!}\frac{1}{n^3}+\cdots+\frac{n(n-1)(n-2)\cdots}{r!}\frac{1}{n^r}+\cdots$
$=1+1+\frac{1}{2}\frac{n}{n}\frac{n-1}{n}+\frac{1}{3!}\frac{n}{n}\frac{n-1}{n}\frac{n-2}{n}+\cdots+\frac{1}{r!}\frac{n}{n}\frac{n-1}{n}\frac{n-2}{n}\cdots\frac{n-r+1}{n}+\cdots$
$=1+1+\frac{1}{2}(1-\frac{1}{n})+\frac{1}{3!}(1-\frac{1}{n})(1-\frac{2}{n})+\cdots+\frac{1}{r!}(1-\frac{1}{n})(1-\frac{2}{n})\cdots(1-\frac{r-1}{n})+\cdots$
この各項のカッコの中は 1 から正の数を引いているので,1より小さい.ということは次の不等式が成り立つ.
$\lt 1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3!}+\cdots+\frac{1}{r!}+\cdots$
さらに初項2 公比 $\frac{1}{2}$の等比数列と各項を比べると,
初項は 1<2
2項は 1=1
3項は $\frac{1}{2}=\frac{1}{2}$
4項は $\frac{1}{3!}\lt \frac{1}{2^2}$
5項は $\frac{1}{4!}\lt \frac{1}{2^3}$
・・・
r項は $\frac{1}{(r-1)!}\lt \frac{1}{2^{r-2}}$
・・・
であるから,
$\lt 2+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\cdots+\frac{1}{2^{r-1}}+\cdots=4$
となり,$a_{n}$は等比数列の和4より常に小さいことがわかる.(2)

よって,(1),(2)より,数列$a_{n}$は「上に有界な単調増加数列は極限値を持つ」という定理に合致し,収束することがわかる.
そして,この極限値を「自然対数の底」と定義するのであった.実際は 4 よりはるかに小さい 2.71828・・・に収束する.

なんてことを,5年前まで勤めた学校の授業で扱ったが,もう授業でやることは一生ないだろうなー

2 件のコメント:

  1. Z⁵-1=(Z-1)(Z⁴+Z³+Z²+Z+1)=0のゼットのべき乗根をといてください。グーぐる検索でもわかりませんでした。くろべえ先生どうかよろしくお願いします。見ず知らずのブログお宅ですが。m(__)m

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  2. ブログのコメントには書ききれないので,新たに記事を書きました.
    http://kurobe3463.blogspot.com/2007/05/fifth-power-root-of-1.html

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