2006年5月13日土曜日

ACアダプター

素朴な質問.
「12ボルトのアダプターがあるが,何オームの抵抗をつなげば5ボルトにできる?」
答えは,「抵抗ではできない.」

5Vの電子機器が
0.1Wを消費しているなら,0.1÷5=0.02Aの電流なので,7Vの電圧を下げるには 7÷0.02=350Ωの抵抗をつなぐ.
1Wを消費しているなら,1÷5=0.2Aの電流なので,7Vの電圧を下げるには 7÷0.2=35Ωの抵抗をつなぐ.
でも電子機器の電力消費は刻々変わるから,話はこんな単純ではない.

さて,電子機器に「定格電力1W」と書いてあるからと言って,35Ωの抵抗をつなぐと壊れてしまう.「定格電力」とは最大消費電力のこと.つまり「スピーカがドン!とでかい音を出す瞬間」とかの電力である.
35Ωの抵抗をつなぐと,その機械が5Vで0.1Wしか消費しないとき,0.02Aの電流なので抵抗値は250Ω.
35Ωと250Ωを12Vに直列につなぐと12:x=(35+250):250,x=10.526
電子機器に10V以上の電圧がかかり壊れる.
では,0.1Wしか消費しないときに壊れないように (12-5):5=R:250,R=350Ωの抵抗を繋ぐと,1Wででかい音を出そうとする瞬間に,電圧が (350+25):25=12:E,E=0.8V に下がってしまって全く動作しない.

ACアダプタは,利用する電子機器の電力消費を検知して刻々と抵抗値を変えて一定の電圧を維持する「電子機器」なのである.
つまり,0.1Wしか消費しないときは350Ω,1Wを消費する瞬間は35Ωに抵抗値を瞬時に変えて制御する.もちろん,抵抗素子(トランジスタ)の熱容量の限界があるから,流せる電流には限界があり,限界以上の負荷をかけると焼損する.

この原理はトランジスタの増幅作用を用いている.
増幅作用とは,入力信号の小さな電圧変化を大きな電流変化にする作用である.
トランジスタの入力電圧が高くなると,トランジスタの抵抗が下がり,たくさんの電流が流れるという性質を使って,刻々と変化する負荷に対応して,抵抗値を変化させる.
つまり,アダプタの出力電圧を検知し,機器の抵抗値が下がって出力電圧が下がると,トランジスタの抵抗値が下がり,電圧を保つように動作する.
トランジスタはもともと,高周波の信号を扱う素子なので,負荷の変動には十分追従できる.

トランジスタの抵抗で電圧を下げる方式は,いわゆる昔からある「トランス方式」で,電圧は熱に変換することで制御する.
つまり,0.1Wを消費しているときは0.02Aの電流なので,350Ωのアダプタは7×0.02=0.14Wを消費.
1Wを消費する瞬間は0.2Aの電流なので,アダプタは35Ωに抵抗値を下げ7×0.2=1.4Wを消費.
つまり,12Vを5Vに変換するアダプタは,「常に5Vの機器の1.4倍の電力を消費」してしまう.
そこで,電圧差を少なくするためにあらかじめトランスで十分に電圧を下げて,そこから制御する.
抵抗素子はトランジスタ.動作するには最低でも3V以上の電圧差が必要.9Vがほしければトランスは12V以上の電圧を出してほしい.5Vがほしい場合,下手すると倍近い10V程度から下げる場合がある.10Vから5Vに抵抗で下げると,抵抗は常に5Vの電子機器と同じ電力消費をする計算になる.
昔のゴロっと重たい,トランスの入ったACアダプタが熱を持つのはこのような理由による.それも,利用している機器の電力消費と連動し,比例して消費する.

さらに,このトランス式では入力電圧100V固定である.せいぜい115Vくらいまで.
100V→トランスで12V→トランジスタでDC9V
のアダプタではトランスの巻き数比 100:12 なので,115Vの入力は,
115V→トランスで13.8V→トランジスタでDC9V
12Vと13.8Vの差は,抵抗素子(トランジスタ)で吸収できる範囲であるが,
入力が240Vでは,
240V→トランスで28.8V→トランジスタでDC9V
となり,電圧差が大きすぎてトランジスタが破壊される.

最近は,電圧差を熱に変える抵抗で制御するのではなく,高速にスイッチングしてon-offの時間の比で電圧を制御する効率のよいスイッチングレギュレータ方式が主流である.
>参考 1 2
on-offの周波数が高いので,トランスも小さく,電圧制御も抵抗による発熱ではないので原理的には電力消費(発熱)は少なく効率がよいが,高周波のスイッチングのノイズがでるという欠点があるらしい.

さらにスイッチング式だと,入力電圧が100V~240Vというのがほとんど.
つまり入力電圧を選ばない.入力電圧が高ければ「onの時間を短くする」だけで済むからである.
ACアダプタの入力電圧が100V~240Vとなっていれば,間違いなくスイッチングレギュレータ式である.

「12ボルトのアダプターがあるが,何オームの抵抗をつなげば5ボルトにできる?」
さて,ACアダプタの電圧を変えるには,内部に使われている回路の定数を変えれば,ある範囲で変えることができるが,それには知識と技術が必要.>例「ACアダプタ改造」
こちらのサイトの次の文言が好きである.
「決まり文句だが、この記事を見て改造をしようと思いたった人、すべては自己責任で行い、壊れたり事故がおこったりしても私や秋月に苦情を言ってはいけない。
自分の失敗を他人のせいにするような人は、そもそもこういうことをやってはいけないのである。」
自分は過去,いろいろとやって,物を壊したり,怪我もしたけれど,自己責任である以上に,恥ずかしくて誰にも言えないw

12ボルトを5ボルトに下げるには,3端子レギュレータ>秋月電子
を使って回路を組むか,はじめから必要な電圧の
AC アダプタを買うのがカンタン>秋月電子

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