2004年10月17日日曜日

円周率の数値計算

円周率は円周と直径の比である.
たくさんの桁数が求まっている.
もちろんこれも実測するわけではない.円周率に収束する式がある.
高校の知識で求まる公式の一つが,ライプニッツの公式.
\[1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\frac{1}{11}+\cdots=\frac{\pi}{4}\]
というもの.

ここから先はくろべえのメモ・・・・


初項a,公比rのn項までの等比数列の和の公式
  $a+ar+ar^2+\cdots+ar^{n-1}=\frac{a(1-r^n)}{1-r}$

これって,展開(因数分解)の公式でもある.
$(x-1)(x+1)=x^2-1$
$(x-1)(x^2+x+1)=x^3-1$
$(x-1)(x^3+x^2+x+1)=x^4-1$
$(x-1)(x^4+x^3+x^2+x+1)=x^5-1$

$(x-1)(x^{n-1}+\cdots+x^3+x^2+x+1)=x^n-1$

両辺を $x-1$ で割ると
  $x^{n-1}+\cdots+x^3+x^2+x+1=\frac{x^n-1}{x-1}$

両辺を a 倍すれば等比数列の和の公式完成.
あ,右辺の分母分子をそれぞれ $-1$ 倍も.

初項1,公比rのn項までの等比数列の和は
  $1+r+r^2+\cdots+r^{n-1}=\frac{1-r^n}{1-r}$
より,これで $r=-x^2$ とすると
  $1-x^2+x^4-\cdots+(-x^2)^{n-1}=\frac{1-(-x^2)^n}{1+x^2}$
  $1-x^2+x^4-\cdots+(-1)^{n-1}x^{2n-2}=\frac{1}{1+x^2}-\frac{(-x^2)^n}{1+x^2}$
左辺を積分区間 $0\le x \le 1$で積分すると
  $\int_0^1(1-x^2+x^4-\cdots+(-1)^{n-1}x^{2n-2})dx$
  $=[x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\cdots+(-1)^{n-1}\frac{x^{2n-1}}{2n-1}]_0^1$
  $=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\cdots+(-1)^{n-1}\frac{1}{2n-1}$

右辺の積分は
  $\int_0^1\frac{1}{1+x^2}dx-(-1)^n\int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2}dx$
右辺の第1項は$\frac{\pi}{4}$ になる.(数学IIIの教科書に必ず出ている積分)

実際,$x=\tan \theta$ で置換すると,積分区間 $0\le x\le 1$ は $0\le \theta \le\frac{\pi}{4}$ となり,
  $dx=\frac{1}{\cos^2 \theta} d\theta$(置換)
  $\int_0^1\frac{1}{1+x^2}dx=\int_0^1\frac{1}{1+\tan^2 \theta}\cdot\frac{1}{\cos^2 \theta} d\theta$
$1+\tan^2 \theta=\frac{1}{\cos^2 \theta}$ (数学Iの公式) だから約分できて
  $=\int_0^1 1 d\theta=[\theta]_0^\frac{\pi}{4}=\frac{\pi}{4}$

よって右辺は
  $\frac{\pi}{4}-(-1)^n\int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2} dx$

左辺を $S_n$ とおく.
  $S_n=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\cdots+\frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}$
つまり
  $S_n=\frac{\pi}{4}-(-1)^n\int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2} dx$
より
  $\frac{\pi}{4}-S_n=(-1)^n\int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2} dx$
になる.

この積分は0に収束する.
これは数学IIIの教科書に必ず出ている積分の強単調性(不等号の=が取れる)を使った証明である.
$x\ge 0$ より,$x^{2n}\ge 0$ で $1+x^2\ge 1$ なので,
  $0 \lt \frac{x^{2n}}{1+x^2} \le x^{2n}$
それを積分すると,強単調性で
  $0 < \int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2}dx < \int_0^1{x^{2n}}dx$
$\int_0^1{x^{2n}}dx=[\frac{x^{2n+1}}{2n+1}]_0^1=\frac{1}{2n+1}$ なので,
  $0 < \int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2}dx < \frac{1}{2n+1}$
$n\to\infty$ で $\frac{1}{2n+1}\to0$ となるからはさみうちの原理で,
  $\int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2} dx\to0$


よって $\frac{\pi}{4}-S_n=(-1)^n\int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2} dx\to0$,つまり $\lim_{n\to\infty}{(\frac{\pi}{4}-S_n)}=0$
  $\frac{\pi}{4}=\lim_{n\to\infty} S_n=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots$


これがライプニッツの公式.(数学IIIまでの計算技術で求まる.実際,2000年 W大の入試問題に出た.)

入試問題なら誘導しないと無理.
(1) $1-x^2+x^4-x^6+\cdots +(-1)^n x^{2n-2}$ の和を求めよ.
(2) $S_n=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots+(-1)^n\frac{1}{2n-1}$ とする.
このとき,$S_n=\int_0^1\frac{1}{1+x^2}dx-(-1)^n\int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2}dx$ を示せ.
(3) $\int_0^1\frac{1}{1+x^2}dx$ を求めよ.
(4) $0<\int_0^1\frac{x^{2n}}{1+x^2}<\frac{1}{2n+1}$ を示せ.
(5) $\lim_{n\to\infty}S_n$ を求めよ.

ライプニッツの公式は収束は遅く,現代の円周率の計算にはもっと高速に収束するものが使われる.
高校の数学の知識で求めることのできる高速な公式は,1704年にマチンがライプニッツの公式を改良した式.

$\frac{\pi}{4}=(\frac{4}{5}-\frac{1}{239})-\frac{1}{3}(\frac{4}{5^3}-\frac{1}{239^3})+\frac{1}{5}(\frac{4}{5^5}-\frac{1}{239^5})-\frac{1}{7}(\frac{4}{5^7}-\frac{1}{239^7})+\cdots$

マチンの公式はライプニッツの公式の各項
  $(-1)^{n-1}\frac{1}{2n-1}$
  $(\frac{4}{5^{2n-1}}-\frac{1}{239^{2n-1}})$
をかけたものである.

マチンの公式を導く

上記のように $\tan\frac{\pi}{4}=1$ から求めるのだが,そのために $\tan\theta=x$ の逆関数 $\theta=\arctan x$ の級数展開を求める.

初項 1,公比 $-t^2$,項数 $n$ の等比数列の和より,
  $1-t^2+t^4-t^6+\cdots+(-t^2)^{n-1}=\frac{1-(-t^2)^n}{1-(-t^2)}$
  $1-t^2+t^4-t^6+\cdots+(-1)^{n-1}t^{2n-2}=\frac{1-(-1)^n t^{2n}}{1+t^2}$

左辺の$0\le t \le x$ の積分は
  $\int_0^x(1-t^2+t^4-t^6+\cdots+(-1)^{n-1}t^{2n-2})dt$
  $=[t-\frac{t^3}{3}+\frac{t^5}{5}-\frac{t^7}{7}+\cdots+(-1)^{n-1}\frac{t^{2n-1}}{2n-1}]_0^x$
  $=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\cdots+(-1)^{n-1}\frac{x^{2n-1}}{2n-1}$

右辺の$0\le t \le x$ の積分は
  $\int_0^x\frac{1-(-1)^n t^{2n}}{1+t^2}dt=\int_0^x \frac{1}{1+t^2}dt-\int_0^x \frac{(-1)^n t^{2n}}{1+t^2}dt$
と2つの積分に分けられる.

右辺1つ目の積分
  $\int_0^x \frac{1}{1+t^2}dt$
は $t=\tan \eta$ と置換すると,$0<t<x=\tan\theta$ のとき,$0<\eta<\theta$ 
  $dt=\frac{1}{\cos^2\eta}d\eta$,$1+t^2=1+\tan^2\eta=\frac{1}{\cos^2\eta}$
より,
  $\int_0^x \frac{1}{1+t^2}dt=\int_0^\theta \frac{\cos^2\eta}{1}\frac{1}{\cos^2\eta}d\eta=\int_0^\theta 1 d\eta=[\eta]_0^\theta =\theta =\arctan x$

右辺の2つ目の積分
  $-\int_0^x \frac{(-1)^n t^{2n}}{1+t^2}dt=-(-1)^n \int_0^x \frac{t^{2n}}{1+t^2}dt$
において,
  $\int_0^x \frac{t^{2n}}{1+t^2}dt$
は $t\ge 0$ より,$t^{2n}\ge 0$ と $1+t^2\ge 1$ から
  $0\le \frac{t^{2n}}{1+t^2} \le  t^{2n}$
積分の強単調性により
  $0<\int_0^x \frac{t^{2n}}{1+t^2}dt<\int_0^x  t^{2n}dt$
ここで,
  $\int_0^x  t^{2n}dt=[\frac{t^{2n+1}}{2n+1}]_0^x=\frac{x^{2n+1}}{2n+1}$
であるから,
  $0<\int_0^x \frac{t^{2n}}{1+t^2}dt<\frac{x^{2n+1}}{2n+1}$
$n\to\infty$ のとき,$\frac{x^{2n+1}}{2n+1}\to 0$ より,はさみうちの原理で
  $\int_0^x \frac{t^{2n}}{1+t^2}dt\to 0$

よって,右辺は$n\to\infty$ のとき
  $\int_0^x \frac{1}{1+t^2}dt-\int_0^x \frac{(-1)^n t^{2n}}{1+t^2}dt \to \theta+0=\theta$
となり,
  $\theta=\arctan x=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\cdots+(-1)^{n-1}\frac{x^{2n-1}}{2n-1}+\cdots$
と級数展開される.

よって,$x=\tan\theta$ より,$\theta=\arctan x$ で
  $\theta=\arctan x=\int\frac{1}{1+x^2}dx$
  $=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\frac{x^7}{7}+\cdots$
  $=\sum\frac{(-1)^{n-1}x^{2n-1}}{2n-1}$ 
となる.

これで,$x=\tan\frac{\pi}{4}=1$ を代入したものが,ライプニッツの公式 $\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots$
\[\pi=\sum (-1)^{n-1}\frac{4}{2n-1}\]


マチンの公式は
$\tan\alpha=\frac{1}{5}$ を使う.
$\tan$ の加法定理(数学II)より
  $\tan2\alpha=\frac{2\tan\alpha}{1-\tan^2\alpha}=\frac{5}{12}$
さらに
  $\tan4\alpha=\frac{2\tan2\alpha}{1-\tan^2 2\alpha}=\frac{120}{119}>1=\tan\frac{\pi}{4}$
  $\tan4\alpha>\tan\frac{\pi}{4}$
  $4\alpha\gt\frac{\pi}{4}$

$\frac{\pi}{4}=4\alpha-\beta$ とすると,$\beta=4\alpha-\frac{\pi}{4}$ より
  $\tan\beta=\tan(4\alpha-\frac{\pi}{4})=\frac{\tan4\alpha-\tan\frac{\pi}{4}}{1+\tan4\alpha\tan\frac{\pi}{4}}=\frac{\frac{120}{119}-1}{1+\frac{120}{119}}=\frac{1}{239}$



$\tan\alpha=\frac{1}{5}$より,$\alpha=\arctan\frac{1}{5}$ 
$\tan\beta=\frac{1}{239}$より,$\beta=\arctan\frac{1}{239}$ 
を級数展開の $x$ に代入すれば,マチンの公式が完成する.

$\tan\frac{\pi}{4}=\tan(4\alpha-\beta)$より,
  $\frac{\pi}{4}=4\alpha-\beta=4\arctan\frac{1}{5}-\arctan\frac{1}{239}$
  $=4\sum\frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}(\frac{1}{5})^{2n-1}-\sum\frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}(\frac{1}{239})^{2n-1}$
  $=4\sum\frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}\frac{1}{5^{2n-1}}-\sum\frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}\frac{1}{239^{2n-1}}$
  $=\sum\frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}\frac{4}{5^{2n-1}}-\sum\frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}\frac{1}{239^{2n-1}}$
  $=\sum\frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}(\frac{4}{5^{2n-1}}-\frac{1}{239^{2n-1}})$

\[\pi= \sum(-1)^{n-1}\frac{4}{2n-1}(\frac{4}{5^{2n-1}}-\frac{1}{239^{2n-1}}) \]

ライプニッツの公式の第4項までの和
  $4-\frac{4}{3}+\frac{4}{5}-\frac{4}{7}=\frac{304}{105}=2.8952381$
3.14 にはだいぶ遠い.

マチンの公式の第4項までの和
  $4(\frac{4}{5}-\frac{1}{239})-\frac{4}{3}(\frac{4}{5^3}-\frac{1}{239^3})+\frac{4}{5}(\frac{4}{5^5}-\frac{1}{239^5})-\frac{4}{7}(\frac{4}{5^7}-\frac{1}{239^7}) =\frac{76528487109180192540976}{24359780855939418203125}$
  $=3.14159177$
3.14159265 にだいぶ近い.

エクセルでやってみた

項数
$n$
$(-1)^n\frac{4}{2n-1}$ライプニッツ$(-1)^n\frac{4}{2n-1}(\frac{4}{5^{2n-1}}-\frac{1}{239^{2n-1}})$マチン
1443.183263598 3.183263598
2-1.3333333332.666666667-0.0426665693.140597029
30.83.4666666670.0010243.141621029
4-0.5714285712.895238095-2.92571E-053.141591772
50.4444444443.339682549.10222E-073.141592682
6-0.3636363642.976046176-2.97891E-083.141592653
70.3076923083.2837384841.00825E-093.141592654
8-0.2666666673.017071817-3.49525E-113.141592654
90.2352941183.2523659351.23362E-123.141592654
10-0.2105263163.041839619-4.41506E-143.141592654
$n=7$ 以降,マチンのほうはエクセルの有効数字を超えた桁の和となる.

$n=10$ で,
ライプニッツは$\frac{44257352}{14549535}=3.04184$
マチンは$\frac{89928619715553629727934260725194033068316951644953171299921299656}{28625168706323283759630195891540657933297666848187847137451171875}=3.1415926535897916969$
となり,$\pi=3.14159265358979323846\cdots$ と14桁目まで一致.

ライプニッツで14桁目まで一致させるには,$n=100 000 000 000 000$(14桁)くらいの項数が必要.

現代の桁数アップ競争は,いかに収束の速い式(アルゴリズム)を導くかにかかっている.
関連サイト 1 2 3


linked: 1 2 3

追記>「関孝和」

4 件のコメント:

  1. すみぴょん2009年4月8日 22:28

    円周率 3.14 (最近じゃ 3 とみなしてるし) それ以外に考えることアル?

    返信削除
  2. ないです(^^;)ヾ・・・ってゆうじゃない?......
    ぜんぜん使いませんから.円周率. 残念!
    円周率小数,斬りッ!

    返信削除
  3. 私もマチンの公式を用いて円周率を1000桁計算した事がありますが、マチンの公式がどの様に導き出されるかは知りませんでした。
    やはり、公式を使うには公式の導き方を知っておかないと気持ち悪いですよね。
    非常に分かりやすい説明で理解する事が出来ました。
    それから、4α=arctan(4/5)では無くて4α=4arctan(1/5)ですね。

    返信削除
  4. ありがとうございます.直しました.
    当時3年の授業で毎年のようにライプニッツの公式を導いて見せていたのですが,授業を受けた生徒がW大の入試で
    「見たことあると思ったけれど,できなかった」
    といっていました.

    返信削除

スパム対策のため,コメントは,承認するまで表示されません。
「コメントの記入者:」は「匿名」ではなく,「名前/URL」を選んで,なにかニックネームを入れてください.URL は空欄で構いません.