2004年12月23日木曜日

-1×-1=1 を証明

これより一般的な
 「a<0,b<0ならばab>0」(マイナス×マイナス=プラス)
だったら,高校の教科書の練習問題に出てくる程度の(不等式の性質だけで簡単に示せる)易しい問題である.(a<0 の両辺をb倍すると b<0 より不等号の向きが変わる)

それよりも特殊だが,こういった基本的なことの証明には公理を要請して,そこから証明するしかない.
杉浦光夫著「解析入門I」の問1(v)がまさに「(-1)(-1)=1を示せ」に当たるので,その流れにしたがって,証明してみる.

実数の公理(の一部,「体field(英), Korper(独)」の公理である.この公理は有理数の公理の一部でもある.)
(R1) a+b=b+a (和の交換律)
(R2) (a+b)+c=a+(b+c) (和の結合律)
(R3) たしても変わらない実数が存在する.
  それを「0」と書く.つまり,実数 0 が存在して,すべての実数 a に対して,a+0=0+a=a (和の単位元)
(R4) 実数 a に対して,たして0 になる数が存在する.
  それを(-a)と書く.つまりすべての実数aに対して,実数 -a が存在して,a+(-a)=(-a)+a=0 (和の逆元の存在)
(R5) ab=ba (積の交換律)
(R6) (ab)c=a(bc) (積の結合律)
(R7) a(b+c)=ab+ac,(a+b)c=ac+bc. (分配律)
(R8) かけても変わらない実数が存在する.
  それを「1」と書く.つまり,実数 1 が存在して,すべての実数 a に対して,a1=1a=a (積の単位元)
(R9) 0でない実数 a に対して,かけて1 になる数が存在する.
  それを(1/a)と書く.つまりすべての実数aに対して,実数 (1/a) が存在して,a(1/a)=(1/a)a=1 (積の逆元の存在)
(R10) 0≠1


問1 一般に体Kにおいて,次の(i)~(vi)が成り立つことを示せ.

(i) (R3)をみたす 0 は唯一つ.
証明(根拠は (R1),(R3))
和の単位元が 0 と 0' の2つあるとする.
0は単位元なので実数0'に対して,0'+0=0' …(1)
0'は単位元なので実数0に対して,0+0'=0 …(2)
交換律で 0'+0=0'+0
(1),(2) より
0'=0

(ii) (R4)をみたす (-a) は各aに対し唯一つ.
証明(根拠は (R1),(R2),(R4))
aに対して,和の逆元が (-a) と b の2つあるとする.
(R4)より a+(-a)=0であるし,a+b=0 でもある.
単位元 0 を (-a) にたす.
 (-a)=(-a)+0
a+b=0 でもあるので,0を置き換える.
 =(-a)+(a+b)
結合律(R2)でカッコを付け替える.
 =((-a)+a)+b
交換律(R1)で和の順序を変える.
 =(a+(-a))+b
はじめのカッコ内は(R4)より0に置き換わる.
 =0+b
交換律(R1)で和の順序を変える.
 =b+0
0は単位元なので,
 =b
つまり(-a)=b となってしまって唯一つ.

(iii) (-(-a))=a.
証明(根拠は (R1),(R4),(ii))
(-a) の逆元は(R4) より
 (-a)+(-(-a))=0
となり (-(-a)) である.
一方 (R4) a+(-a)=0 に交換律(R1)を適用すれば,
 (-a)+a=0
と書ける.つまり a は(-a)にたしたら0になるという点で (-a)の逆元といえる.
この段階で,(-a) の逆元には (-(-a)) と a の2つあることになるが,(ii)より逆元は唯一つなので,(-(-a))=a といえる.

(iv) 0a=0.
証明(根拠は (R3),(R7),(i))
0は単位元なので(R3)から,0+0=0 をみたすので,これを左辺の 0 と置き換える.
 0a=(0+0)a
分配律(R7)により
 0a=0a+0a
(R3)により 0a はたしても変わらない数,つまり 0a は和の単位元といえる.
しかし(i) によりそれは唯一つなので,
 0a=0
である.

これにより,0の逆数が存在しないことが分かる.
逆数とは積に関する逆元のことで,積が1になる数.つまり0との積が1になる数が存在しないことが分かる.

(v) (-1)a=(-a).
証明(根拠は (R4),(R6),(R7),(R8),(ii),(iv))
a+(-1)a
を考える.積の単位元(R8)より a=a1
積の交換律(R6)より a=1a で置き換える.
 a+(-1)a=1a+(-1)a
分配律(R7)より
 =(1+(-1))a
和の逆元(R4)より 1+(-1)=0 で置き換えて,
 =0a
(iv)より
 =0
つまり
 a+(-1)a=0
であるから(-1)a は a の逆元である.
a の逆元はこの段階で (-1)a と (-a)の2つあることになるが,(ii)よりそれは唯一つなので,
 (-1)a=(-a)
である.

(vi) (-1)(-1)=1.
証明(根拠は (iii),(v))
(v) において,a を(-1)に置き換える.
 (-1)(-1)=(-(-1))
(iii) によって
 =1
ゆえに (-1)(-1)=1.


証明の依存関係は次のとおり.
(R1,3)→(i)
(R1,2,4)→(ii)
     (ii),(R1,4)→(iii)
(R3,7,i)→(iv)
     (R4,6,7,8),(ii),(iv)→(v)
           (iii),(v)→(vi)

この依存関係から (-1)×(-1)=1 は公理(R1,2,3,4,6,7,8)で示すことができる.

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