飛行機のレシプロエンジンはOHVが多い.
OHV とは Over Head Valve.シリンダーヘッド上にバルブを配置したという意味だが,現代のエンジンでシリンダーヘッドにバルブの無い4サイクルエンジンは皆無である.昔あった「SV(サイドバルブ)」に対する言葉である.>wikipedia
OHV はバルブこそシリンダーヘッド上についていて,吸排気効率や燃焼効率がよいが,バルブを駆動するカムシャフトはクランクシャフト近くにあり,長いロッドを 介してバルブを開閉するため,カムシャフトがシリンダーヘッド上にある OHC(Over Head Cam、SOHC ということもある)やカムシャフト2本のDOHC より高速回転におけるバルブの追従性が悪くなり,パワーが出ない.
排気量が同じなら,吸排気効率を上げればトルクが増しパワーがでる.同じトルクなら回転数が2倍ならパワーが2倍になるから,車や二輪車ではOHV→OHC→DOHC と進化してきた.
つまり回転数を増せばパワーが出るので,小さく作って回転数を上げるのが車や二輪車のレシプロモーター.
ところが,飛行機はそういう発想は無い.
そもそも,プロペラは高回転で回さない.
高速にするには,プロペラの端が音速を超えないように直径を小さくしなければならない.音速を超えると衝撃波で推進力が出なくなるからである.
つまりプロペラは「大きく作ってゆっくり回す」ものといえる.
プロペラ機でもターボプロップでは数万回転のタービンを2000rpm 程度に落としてプロペラを回すが,レシプロモーターを積むような小型機は,クランクシャフトからプロペラを直結する.
もちろん,DOHCで小さいモーターを高回転で回して搾り出したパワーを,ギアで減速してプロペラをまわしてもよいのだが,そういうことはしない.
ギアをなくすことにより軽量化が図れるし,なにより部品点数を減らすことは故障も減り,信頼性向上につながる.
小型機の小さなプロペラではせいぜい 3000rpm.そんな回転数ならわざわざ複雑なOHC にする必要はない.
ということは,モーターも高回転高出力より低回転,大トルクが必要になるから,古典的で信頼性の高いOHV で十分.
高回転が不要なので,ピストンも巨大で大丈夫.シリンダーを大きくして低回転でのトルクを大きくする.気筒数が少なければ部品点数も減り,信頼性も向上する.
実際,セスナのモーターの排気量は3850cc もあるが,たったの4気筒だ.>wikipediea
ハーレーをはじめ,アメリカンタイプの単車もほとんどがOHVである.一時期,本当はOHVでもいいのに,「DOHC=高性能」のイメージ優先のせいで,猫も杓子もDOHC だったことがあった.
OHVは古典的かも知れないが,ネックは高回転の実現がしづらいだけで,それ以外はOHC や DOHC にない利点がある.
一つは部品点数の少なさから来る信頼性.これは飛行機にとっては絶対である.
もう一つはバルブの位置の自由度.
バルブの頭を直接たたく DOHC や,1本のカムシャフトをシリンダーヘッド上部に設置するOHCではバルブの数や位置はカムの位置関係からの制約がある.現代のDOHC 4バルブモーターは,吸排気効率はよくても燃焼室の形が犠牲になっている.
OHVは長いロッドを介するので,かなり自由な位置にバルブを設置できるため,理想的な燃焼室が実現できるである.
熱機関は奥が深いですね。この魅力にとりつかれるとなかなか抜け出せませんw
返信削除レシプロって完成している技術ですよね.逆に言うと,劇的に新しいことはこれからは出ないような気がします.
返信削除