2022年11月18日金曜日

虚数って何に使うの?

電気科2年生の「電気基礎」の研究授業を参観。

高校の数学に出てくる,「虚数(複素数)」が使われている。
よく,
「こんなありえない数を考えて何になるの」
というやつである。

電気科の生徒にとって,虚数imaginary numberは想像上の数ではなく,計算対象の実在する数である。

前の時間までが,抵抗RとコイルL の直列回路で続きの抵抗RとコンデンサC。
交流では,電圧も,電流も虚数で表現されるのである。>以前の記事

RC直列回路①
記号法による計算(電圧,電流を求める)

抵抗R の記号に抵抗のある人は多いなw

Q:電流 I[A]を求める。
① 容量性リアクタンス $X_{C}=-j\frac{1}{\omega C}$
 といきなり,虚数単位 $j$ ($j^2=-1$)が出てくる。数学の $i$ を使わないのは,$i$ は交流電流の記号だから$i$の次の文字$j$を虚数単位に使う。といって,この授業では大文字の$I$を使っている。でも発音が同じだから,やはり $j$ でいいな。
 もともと,$X_{C}=\frac{1}{j\omega C}$であるが,分母分子に $j$をかけて,
 $X_{C}=\frac{1}{j\omega C}=\frac{j}{j^2\omega C}=\frac{j}{(-1)\omega C}=-j\frac{1}{\omega C}$ 
 角速度 $\omega =2\pi f$ でプリントでは,$f=60$[Hz] より,$\omega=2\times 3.14\times 60=376.8$ [rad/sec]
 プリントには,$C=884$[μF] とあるから,
  $\frac{1}{\omega C}=\frac{1}{376.8\times 0.000884}=\frac{1}{0.333}=3$
したがって,$X_{C}=-j3$
884 はここがきれいな数字になるようにしたのね。

② 合成インピーダンス $\dot{Z}=R-j\frac{1}{\omega C}$
  $Z=\sqrt{R^2+(\frac{1}{\omega C})^2}$
 プリントでは $R=4$[Ω]より,$\dot{Z}=4-j3$
  $Z=\sqrt{4^2+3^2}=5$ これは$\dot{Z}$の大きさ。(数学では「絶対値」という。)

③ 偏角 $\theta=\tan^{-1}\frac{(-\frac{1}{\omega C})}{R}=\tan^{-1}\frac{-3}{4}$
 関数電卓をたたいて,$\theta=-0.644$
 $-37$度くらいと思う。$-0.644$は1周360度=$2\pi=6.28$の弧度法(radian)
 そもそも,角速度 $\omega =2\pi f$ の $2\pi=6.28$ は弧度法である。
 このクラスでは自分は数学を教えていて,1学期に複素数,三角関数,ベクトルを扱ったけれど,三角関数は度数法だけ。電気科は普通にラジアンを使うのか。

④ 極形式 $\dot{Z}=Z\angle\theta$ の表示にする。
  $\dot{Z}=5\angle -0.644$
 この書き方,いいな。数学IIIなら,$\dot{Z}=Z(\cos\theta+j\sin\theta)$,電磁気学の本なら$\dot{Z}=Ze^{j\theta}$ と書くけれど,数学III流は式が長い(さらに偏角は2カ所だ)し,高校の数学では「虚数乗」は出てこないし,「絶対値(大きさ)」と「偏角」だけが分かればいいので,$Z\angle\theta$ の書き方は便利だと思った。
    

⑤ $\dot{I}=\frac{\dot{V}}{\dot{Z}}$
 プリントでは電圧 $\dot{V}=100\angle0$[V] (大きさ100,偏角0)より,
 $\dot{I}=\frac{\dot{V}}{\dot{Z}}=\frac{100\angle0}{5\angle -0.644}=\frac{100}{5}\angle{(0-(-0.644))}=20\angle{0.644}$
 ということで,偏角が0でないので,この電流は虚数である。
 これが実在する虚数。実際は偏角が電圧に対する,電流の位相のずれを表していて,0.644ラジアン=約37度位相が進んでいることを表している。

 複素数のかけ算は,大きさ(絶対値)の積,偏角の和
  $(Z_{1}\angle\theta_{1})(Z_{2}\angle\theta_{2})=Z_{1}Z_{2}\angle(\theta_{1}+\theta_{2})$
 わり算は,大きさ(絶対値)の商,偏角の差
  $\frac{Z_{1}\angle\theta_{1}}{Z_{2}\angle\theta_{2}}=\frac{Z_{1}}{Z_{2}}\angle(\theta_{1}-\theta_{2})$
と単純化できる。しかし,「絶対値」,「偏角」は数学IIIなので,2年生の数学には出てこない。

授業の実施はここまで。
プリントは,さらに,図にある抵抗の両端の電圧$\dot{V}_{R}$,コンデンサの両端の電圧$\dot{V}_{C}$ のベクトルの和が,電源電圧$\dot{V}$となっているベクトル図を書かせる内容に続いていた。

オームの法則で,電圧=電流×電圧 なので,
抵抗の両端の電圧$\dot{V}_{R}=\dot{I}\times R=20\angle{0.644}\times 4=80\angle{0.644}$
コンデンサの両端の電圧は容量性リアクタンス$X_{C}=-j3$の偏角は$-\frac{\pi}{2}=-1.57$より,$\dot{V}_{C}=20\angle{0.644}\times 3\angle{-1.57}=60\angle{0.644-1.57}=60\angle-0.926$
これはベクトル図にするには直交形式の方がわかりやすいかも。
どう扱うかはわからないけど。


けれど,この大きさ(絶対値)と偏角のかけ算わり算は数学IIIの範囲なので,これまで数学の授業では扱っていない。
数学IIの範囲の計算なら,
⑤ $\dot{I}=\frac{\dot{V}}{\dot{Z}}=\frac{100}{4-3j}=\frac{100(4+3j)}{(4-3j)(4+3j)}=\frac{100(4+3j)}{4^2-3^2j^2}=\frac{100(4+3j)}{16-9(-1)}=\frac{100(4+3j)}{25}$
$=16+12j$ となる。
極形式は数学IIIの範囲で,大きさは$\sqrt{16^2+12^2}=20$ 偏角は $\theta=\tan^{-1}\frac{12}{16}=0.644$ より,$\dot{I}=20\angle0.644$ である。
複素数のかけ算,わり算は,極形式の方が便利なのである。

電流$\dot{I}$を基準とするベクトル図はこうかな。
$\dot{V}=\dot{V}_{R}+\dot{V}_{C}$ とベクトルの和となる。ベクトルの和は,1学期の数学の授業では扱った。


この数学IIの直交形式の電流$\dot{I}=16+12j$ より,
抵抗の両端の電圧$\dot{V}_{R}=\dot{I}\times R=(16+12j)\times 4=64+48j$
コンデンサの両端の電圧$\dot{V}_{C}=\dot{I}\times X_{C}=(16+12j)\times (-3j)=-36j^2-48j=36-48j$。
いずれも,虚数の電圧
$V=V_{R}+V_{C}=(64+48j)+(36-48j)=100=100\angle 0$ とつじつまが合うわけだ。

 そして,電力=電圧×電流 も当然複素数となる。その複素数の偏角のcos が「力率」で,実部が有効電力。虚部が無効電力で発電所に戻るでエネルギーである。

 数学III では極形式の絶対値5,偏角 -0.644 は$5(\cos(-0.644)+i \sin(-0.644)$ という形であるが,この書き方はあまり好きでない。
というのは,たとえば,複素数 $1-i$ の絶対値は$\sqrt{1^2+(-1)^2}=\sqrt{2}$,偏角$-\frac{\pi}{4}$ なので,
 $1-i=\sqrt{2}(\frac{1}{\sqrt{2}}-\frac{1}{\sqrt{2}})=\sqrt{2}(\cos(-\frac{\pi}{4})+i\sin(-\frac{\pi}{4}))$
であるが,これを
 $1-i=\sqrt{2}(\frac{1}{\sqrt{2}}-\frac{1}{\sqrt{2}})=\sqrt{2}(\cos(\frac{\pi}{4})-i\sin(\frac{\pi}{4}))$
のようにする生徒が多発するからである。
 なので,自分が数学IIIを担当したときは,「絶対値」「偏角」に着目した,
  $\cos\theta+i\sin\theta=e^{\theta i}$
と天下りに決めて,
  $1-i=\sqrt{2}e^{-\frac{\pi}{4}i}$
と書かせたりした。それよりも$\sqrt{2}\angle-\frac{\pi}{4}=1.4\angle-0.79$ の方がずっといいな。

2 件のコメント:

  1. 現時点で大学では旧JIS使ってます.トラ技で新JIS使うようになったら考えます.hi

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    1. 2003年の学習指導要領以降、高校の教科書は、文科省の検定で旧JISは使えないのでしょう。なので、2005年度センター試験までは旧JIS、2006年度以降センター試験は新JISのようです。36歳以下の人の高校の物理では新JISですが、まぁさほど人数は多くなさそう。30歳以下の人たちは小中高で新JISなので、その世代が台頭したら、抵抗のある我々は駆逐されるw

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