(つづき)
絶対値といえば,
|a+b|≦|a|+|b|
という不等式がある.
a=3,b=5 なら,
|a+b| = |3+5| = |8| = 8
|a|+|b| = |3| + |5| = 3+5 = 8
で,
|3+5| = |3|+|5|
a=3,b=-5 なら,
|a+b| = |3-5| = |-2| = 2
|a|+|b| = |3| + |-5| = 3+5 = 8
で,
|3+(-5)| < |3|+|-5|
とまぁ,アタリマエであり,教科書には証明が出ている.>証明サイト
この,不等式
|a+b|≦|a|+|b|
を三角不等式という.
数直線上の2つの数なので,三角形はできないのに,そんな名前がついている.もちろん名前の由来は,図形の三角形の性質から来ている.
「三角形の 2 辺の長さの和は残りの 1 辺の長さよりも大きい」
ベクトルでは,$|\vec{a}|$ をベクトル $\vec{a}$ の大きさ(長さ)と言っている.
つまり,この不等式はそのままベクトルの大きさの不等式
$|\vec{a}+\vec{b}|\le|\vec{a}|+|\vec{b}|$
になる.
つまり図の,三角形ABCについて,
「三角形の 2 辺の長さの和は残りの 1 辺の長さよりも大きい」
ということから,
AB+BC≧AC
といえる.(等号成立は,線分AC上に点Bが重なったとき.)
$\vec{\mathrm{AB}}=\vec{a},\ \vec{\mathrm{BC}}=\vec{b} $
とすれば,
$\vec{\mathrm{AC}}=\vec{a}+\vec{b}$
であり,
$\mathrm{AB}=|\vec{\mathrm{AB}}|=|\vec{a}|,\ \mathrm{BC}=|\vec{\mathrm{BC}}|=|\vec{b}|$
$\mathrm{AC}=|\vec{\mathrm{AC}}|=|\vec{a}+\vec{b}|$
であるので,AC≦AB+BCから,
$|\vec{a}+\vec{b}|\le|\vec{a}|+|\vec{b}|$
となり,数の絶対値と同じ構造を持つ.
この三角不等式から,逆に数の絶対値の不等式も「三角不等式」と呼んでいる.
絶対値記号の不等式を,数の性質だけで証明するのはかなり面倒な作業となるが,ベクトルの三角不等式は,内積の定義から,容易に証明される.
$(|\vec{a}|+|\vec{b}|)^2-|\vec{a}+\vec{b}|^2 \\
=|\vec{a}|^2+2|\vec{a}||\vec{b}|+|\vec{b}|^2-(|\vec{a}|^2+2\vec{a}\cdot\vec{b}+|\vec{b}|^2) \\
=2(|\vec{a}||\vec{b}|-\vec{a}\cdot\vec{b})\\
=2(|\vec{a}||\vec{b}|-|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta)\\
=2|\vec{a}||\vec{b}|(1-\cos\theta)\\
\ge 0$
絶対値は,複素数 a+bi (i^2=-1) にも定義され,その絶対値は複素平面上の,やはり「原点からの距離」である.
複素数 a+bi は平面上の点 (a, b) であるので,三平方の定理から,原点との距離が$\sqrt{a^2+b^2}$ となるから,絶対値は
$|a+bi|=\sqrt{a^2+b^2}$
と定義される.
たとえば,α=3+i,β=1+2i のときは,
$|\alpha|=|3+i|=\sqrt{3^2+1^2}=\sqrt{10}, $ $|\beta|=|1+2i|=\sqrt{1^2+2^2}=\sqrt{10},$
であり,α+β=(3+1)+(1+2)i=4+3i であるから,
$\alpha+\beta|=|3+4i|=\sqrt{3^2+4^2}=\sqrt{25}=5$
である.√10+√5=3.16+2.24=5.40>5 より
|α|+|β|≧|α+β|
が成り立っているが,図より,これもやはり「三角不等式」で,数直線上の絶対値と同じ構造を持っている.
複素数 α=a+bi,β=c+di の場合の証明は,ベクトルの成分表示 (a, b),(c, d) における証明と同じになるが,実は,その証明はコーシーシュワルツの不等式
$(a^2+b^2)(c^2+d^2)\ge(ac+bd)^2$
の証明になっている.
そもそもベクトルの,
$|\vec{a}||\vec{b}|\ge\vec{a}\cdot\vec{b}$
を,コーシーシュワルツの不等式という.>Wikipedia
(実数でも,|a||b|≧ab は成り立つが,複素数は順序体でないのでこの形の不等式はない>虚数に大小はない)
コーシーシュワルツの不等式は,もともと三角不等式なのである.
>つづく
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