2004年12月29日水曜日

0.111…×3=0.333… の証明

タイトルの「0.111…×3=0.333…」
これの「証明」と聞くと
「当たり前で,何が問題なのだろう」
と思う人は多いと思う.
問題は無限に続く「…」にも「3倍が及ぶか?」
あるいは無限桁の「111…」を「3倍」するという意味はどういうことか?
ということである.
証明のポイントは「有限桁の極限」である.

無限循環小数をたとえば,
$0.111\cdots=\lim_{n\to\infty}(\frac{1}{10}+\frac{1}{100}+\cdots+\frac{1}{10^n})$
と定義する.つまり,小数第n桁で切ったものの極限と考えるわけである.
同様に
$0.333\cdots=\lim_{n\to\infty}(\frac{3}{10}+\frac{3}{100}+\cdots+\frac{3}{10^n})$
である.
$\frac{1}{10}+\frac{1}{100}+\cdots+\frac{1}{10^n}$ は有限の n個の和なので,計算できて,それは
$\frac{0.1\times (1-0.1^n)}{1-0.1}=\frac{1-0.1^n}{9}$ である.
$\frac{\,1\,}{\,9\,}$ という極限値を持つので,
$0.111\cdots=\lim_{n\to\infty}(\frac{1}{10}+\frac{1}{100}+\cdots+\frac{1}{10^n})=\frac{\,1\,}{\,9\,}$
と定義される.
(本来は「任意の小さい正の数εについて大きな番号k を選べば kより大きいすべての番号n について,$\frac{\,1\,}{\,9\,}$ との差がεより小さくできる」ということである.)

$\frac{1}{10}+\frac{1}{100}+\cdots+\frac{1}{10^n}$ は有限の n個の和なので,3倍するのも問題ない.
3倍すると,
$\frac{3}{10}+\frac{3}{100}+\cdots+\frac{3}{10^n}=\frac{3(1-0.1^n)}{9}=\frac{(1-0.1^n)}{3}$
となる.
$\frac{\,1\,}{\,3\,}$ という極限値を持つので,
$0.333\cdots=\lim_{n\to\infty}(\frac{3}{10}+\frac{3}{100}+\cdots+\frac{3}{10^n})=\frac{\,1\,}{\,3\,}$
と定義される.
一方極限値のほうも,$\frac{\,1\,}{\,9\,}\times3=\frac{\,1\,}{\,3\,}$ が成り立つ.
したがって $0.111\cdots\times3=0.333\cdots$ といえる.
つまり,極限の結果レベルで $0.111\cdots\times3=0.333\cdots$ が成り立つといえる.

この証明のポイントは,「3倍」が「有限個の和」についてされているところにある.
無限の「…」に3倍が及ぶかどうかは知らないし,無限桁について証明はできない.
しかし,有限個レベルでは「3倍」は正しい.
そして,3倍の極限と一致することが言えて,はじめて「…」にも3倍が等しく及ぶことが証明されるのである.

これはあらゆる無限級数についていえることである.
無限級数
$a_1+a_2+a_3+\cdots=\sum_{n=1}^{\infty}a_n$
とは有限のn個の和
$S_n=a_1+a_2+a_3+\cdots+a_n$
について $S_n$ で作られる数列の極限値Sが存在するときに,級数の「和S」と定義されるのである.
$\sum_{n=1}^{\infty}a_n=S$
と定義される.

そもそも和とは「2個の数」について定義される演算で,「無限個の和」というものはない.
「n個の和」も$(\cdots( (a_1+a_2)+a_3)+\cdots+a_n)$ と2個の和の繰り返しに還元できる.
そして,その有限和の極限の形で初めて定義されるものが級数なのである.
この和の線型性
$\sum_{n=1}^{\infty}(pa_n+qb_n)=pS+qT$
の証明も
$\sum_{n=1}^{\infty}(pa_n+qb_n)=p\sum_{n=1}^{\infty}a_n+q\sum_{n=1}^{\infty}b_n=pS+qT$
は証明になっていない.それは無限個の和について,p倍とか足し算が定義されていないからである.上記の無限小数の「…」にp倍とか和が定義されていないのと同じである.そういった計算は有限個の和を経由しなければ証明とはいえない.
(証明)
$\sum_{n=1}^{\infty}(pa_n+qb_n)$
は定義から
$\sum_{n=1}^{\infty}(pa_n+qb_n)=\lim_{n\to\infty}( (pa_1+qb_1)+(pa_2+qb_2)+\cdots+( pa_n+qb_n) )$
であるといえる.
足し算の順序を入れ替えることは有限個の和ならいつでもできることなので,
$(pa_1+qb_1)+(pa_2+qb_2)+\cdots+(pa_n+qb_n)$
$=(pa_1+pa_2+\cdots+pa_n)+(qb_1+qb_2+\cdots+qb_n)$
さらに,pやq でくくることも有限個の和なら常識なので,
$=p(a_1+a_2+\cdots+a_n)+q(b_1+b_2+\cdots+b_n)$
したがって,
$\sum_{n=1}^{\infty}(pa_n+qb_n)$
$=\lim_{n\to\infty}( (pa_1+qb_1)+(pa_2+qb_2)+(pa_n+qb_n) )$
$=\lim_{n\to\infty}(p(a_1+a_2+\cdots+a_n)+q(b_1+b_2+\cdots+b_n))$
である.
lim は極限値があるものについては線型で lim (px+qy)=p lim x + q lim y とできるので,
$\sum_{n=1}^{\infty}(pa_n+qb_n)$
$=\lim_{n\to\infty}(p(a_1+a_2+\cdots+a_n)+q(b_1+b_2+\cdots+b_n))$
$=p \lim_{n\to\infty}(a_1+a_2+\cdots+a_n)+q \lim_{n\to\infty}(b_1+b_2+\cdots+b_n)$
さて,
$\lim_{n\to\infty}(a_1+a_2+\cdots+a_n)=\sum_{n=1}^{\infty}a_n=S$
$\lim_{n\to\infty}(b_1+b_2+\cdots+b_n)=\sum_{n=1}^{\infty}b_n=T$
という仮定だったから
$\sum_{n=1}^{\infty}(pa_n+qb_n)=pS+qT$
と無限級数の線型性が示される.
証明のポイントはあくまで無限の「…」についての演算は一切していないというところにある.

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