2012年5月2日水曜日

慣れていない


数学III の授業をやっていて気付くこと.生徒は,極限の考え方に慣れていない.
$\frac{1}{n}$の極限を即答できなかったりする.
数列 1, $\frac{1}{2},\frac{1}{3},\cdots$は調和数列harmonic sequenceともいう.弦を,調和数列の長さの場所で押さえると,響きが安定することに由来しているのかな.

$\frac{2n+1}{n+1}$ の分子分母を n で割って,$\frac{2+\frac{1}{n}}{1+\frac{1}{n}}$の極限 2
「計算はできる.が,何をやっているのかさっぱり・・・」
という.
たしかに,今までの数学には出てこなかった考え方だろう.自分は慣れているけれど,なんだか高校生の頃の感覚を思い出した.自分も何が何だかわからずにやっていたのだろうなー

だから,数値計算を見せて,実感してもらって,
「いま何の計算してるの」
を感じてもらう.
授業を受けるのは「理系」の生徒.大半は工学系に進むから,「数値の感覚」を身につけてほしい.

n$\frac{1}{n}$
11
20.5
30.333333333
40.25
50.2
60.166666667
70.142857143
80.125
90.111111111
100.1
1000.01
10000.001
100000.0001
$\frac{1}{n}\to0$

n$\frac{2n+1}{n+1}$
10.5
21
31.25
41.4
51.5
61.571428571
71.625
81.666666667
91.7
101.727272727
1001.97029703
10001.997002997
100001.99970003
$\frac{2n+1}{n+1}\to2$

n$0.5^{n-1}$
11
20.5
30.25
40.125
50.0625
60.03125
70.015625
80.0078125
90.00390625
100.001953125
$0.5^{n-1}\to0$
こうして並べると,即答できなかった子も,すぐにわかってくれる.

ところが,並べてもなんだか分からないものがある.
n$\sum_{n=1}^{\infty}0.999^n$
10.999
21.997001
32.994003999
43.990009995
54.985019985
65.979034965
76.97205593
87.964083874
98.95511979
109.94516467
10095.11264503
1000631.6722707
でかくなるのはわかるけど,収束する?
そうなると,やはり計算(推論)の力が必要となる.
等比級数の和(極限)は公式より
$\frac{a}{1-r}=\frac{0.999}{1-0.999}=999$

1分で全部の数を数える方法.
30秒かけて「一」
15秒かけて「二」
7.5秒かけて「三」
3.75秒かけて「四」
1.875秒かけて「五」
・・・
かかる時間は,初項30,公比0.5より和は
$\frac{30}{1-0.5}=60$秒
「後ろの方はちょっと早口になるよ」

見ても分からないから,推論の力が必要な極限の例.
n$\frac{1}{n}$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}$
11.0001.000
20.5001.500
30.3331.833
40.2502.083
50.2002.283
60.1672.450
70.1432.593
80.1252.718
90.1112.829
100.1002.929
1000.0105.187
10000.0017.485
$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}$ はさっぱり増えないけれど,∞に発散することで有名.

2学期後半に扱う予定の教科書の積分の応用のページ例題に
$\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}\gt\log(n+1)$
の証明が出ている.
log は無限に大きくなるから,それより大きいΣ1/nは発散する.
(積分を使わない,易しい証明もあるが)

60秒かけて「一」
30秒かけて「二」
20秒かけて「三」
15秒かけて「四」
12秒かけて「五」
・・・
だと,どんどん早口になるけど,一生かけても数え終わらない.

ここから先は,余計な話(これが好き♪)>sin の因数分解
$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots$
はそんなわけで無限に発散するけど,

$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}=1+\frac{1}{4}+\frac{1}{9}+\cdots=\frac{\pi^2}{6}$

ついでに,$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}$ について,
初項は1
第2項までは$1+\frac{1}{2}$
第3項を得るには,
$(1+\frac{1}{2})(1+\frac{1}{3})=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{6}$
以下,同様に必要な項に必要な積を作って
$(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4})(1+\frac{1}{3})=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{6}+\frac{1}{12}$

$(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4})(1+\frac{1}{3})=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{6}+\frac{1}{12}$

$(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4})(1+\frac{1}{3})(1+\frac{1}{5})=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\frac{1}{10}+\cdots$

$(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4})(1+\frac{1}{3})(1+\frac{1}{5})(1+\frac{1}{7})=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\frac{1}{7}+\cdots$

最終的には,
$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots\\=(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\cdots)(1+\frac{1}{3}+\frac{1}{9}+\cdots)(1+\frac{1}{5}+\frac{1}{25}+\cdots)(1+\frac{1}{7}+\frac{1}{49}+\cdots)$
一つ一つの括弧の中身は等比級数だから公式で,
$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots\\=(\frac{1}{1-\frac{1}{2}})(\frac{1}{1-\frac{1}{3}})(\frac{1}{1-\frac{1}{5}})(\frac{1}{1-\frac{1}{7}})\cdots$
と素数が並ぶ.$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots$は素数と非常に関係が深くて,1年の情報でやった暗号技術の安全性にかかわっている.>公開鍵暗号(RSA)をわかる

同じように,
$1+\frac{1}{4}+\frac{1}{9}+\cdots\\=(\frac{1}{1-\frac{1}{2^2}})(\frac{1}{1-\frac{1}{3^2}})(\frac{1}{1-\frac{1}{5^2}})(\frac{1}{1-\frac{1}{7^2}})\cdots=\frac{\pi^2}{6}$


ついでに,
$\zeta(x)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^x}$って関数があって,
$\zeta(1)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}$は発散するけど,
$\zeta(2)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{6}$という値を持つ・・・ごめん,やめやめ.
じゃ,次に進みます.(調子に乗りすぎ)


ζ(s)=0 になる自明でない解 s の実部はどれも 0.5 だというのが有名なリーマン予想.

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