2011年4月3日日曜日

コーシー・シュワルツの不等式

つづき

先日の三角不等式に出てきた,ベクトルのコーシー・シュワルツの不等式.
$(\vec{a}\cdot\vec{b})^2\le|\vec{a}|^2|\vec{b}|^2$
ふつうはこれを成分表示したものをコーシー・シュワルツの不等式という.
$\vec{a}=(a_1, a_2)$,$\vec{b}=(b_1, b_2)$ならば,
$(a_1b_1+a_2b_2)^2\le(a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2)$
ベクトルの教科書の章末問題に証明問題が出ていたりする.右辺-左辺で平方完成する.
$(a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2)-(a_1b_1+a_2b_2)^2=(a_1b_2-a_2b_1)^2$
この計算は,複素数z=a+bi,w=c+di の絶対値の計算|zw|=|z||w|からも得られる.

等号成立は2つのベクトルが,平行であるか,少なくとも一方が 0 ベクトルのときである.
この等号成立条件を大学1年の数学では一言で,「1次従属」とか「線型従属」というが,自分は教科書にある「平行であるか,少なくとも一方が 0 ベクトル」という言い回しが面倒で,授業で教えて使うことがある.
同様に「平行でない0ベクトルでないベクトル」が1次独立(線型独立)

さて,高校の数学には空間のベクトルも出てくる.つまり3次元で,その場合も同様に成り立つ.
$(a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3)^2\le(a_1^2+a_2^2+a_3^2)(b_1^2+b_2^2+b_3^2)$
成分の変数名に x, y, z を使うと,文字の数に限りがあるが,$a_1, a_2, a_3, \cdots$ とつけた理由は,変数をいくらでも増やせるからである.
つまり本来のコーシー・シュワルツの不等式は,n次元ベクトルの不等式
$(a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3+\cdots+a_nb_n)^2\\ \le(a_1^2+a_2^2+a_3^2+\cdots+a_n^2)(b_1^2+b_2^2+b_3^2+\cdots+b_n^2)$
である.
もちろん証明は,平方完成.あるいはベクトルの三角不等式.
というより,図形に頼らない,式変形だけの平方完成から,三角不等式がn次元でも成立することがわかる.

あと,ベクトルの教科書の章末問題には,2次式の判別式による証明も出ているな.さらに,相加平均≧相乗平均 を使った証明もあるけれど,つまりは高校数学の不等式は最終的に
「コーシー・シュワルツの不等式」に集約されるという点で,この定理はエライのである.(笑

変数を並べて「・・・」で省略するのがいやなら,多くの人が苦しめられた「Σ」を使う式になる.
$\left(\sum_{i=1}^{n}a_ib_i\right)^2\le\left(\sum_{j=1}^{n}a_j^2\right)\left(\sum_{k=1}^{n}b_k^2\right)$

大雑把に言うと,Σak/n のn→∞が極限が ak=f(xk) という関数の積分であるから,
$\left(\int f(x)g(x)dx\right)^2\le\int(f(x))^2dx\int(g(x))^2dx$
これもコーシー・シュワルツの不等式.
これは無限次元のベクトルの不等式ともいえる.これは数学IIIの章末問題に証明問題があったりするが,たぶん2次式の判別式の形に持ち込むのだと思う.(無限次元だから,成分の計算に持ち込めないw)

コーシー・シュワルツの不等式は,高校数学で使うとすれば,
(積の和)の2乗 と (2乗の和)の積
の大小を比べる場面では,「(積の和)の2乗 ≦(2乗の和)の積」を秒殺でいえる不等式という点で,「相加平均≧相乗平均」や三角不等式に匹敵するワザにはなりうる.というより,大学入試問題で,そこから作ったと思える問題は良く出て,ニヤリとする.

この不等式を統計の世界で言えば,
共分散の2乗≦標準偏差の2乗の積
だし,極限を取って(積分の形にして),正規化すれば確率論での不等式となる.

ベクトルでの
内積÷ノルム=cos
の右辺の cos を統計の世界では「相関係数」と呼ぶ.(相関係数とはデータの数次元のベクトルのなす角のコサインなのだ)
ということで,現行の数Bの教科書には,ベクトルと,Σ(数列)と,統計(相関係数)が書かれているが,こいつらは,この不等式を介在してウラでつながっていたのである(笑


不等式は1冊の本になるくらい奥の深い世界である.>不等式

そもそも,工学の世界ではピッタリ「=」になることよりも,「・・・を超えない」のような不等式の方が重要だったりする.
数学IIまでは,ピッタリ求まる問題ばかり扱っていたのが,数IIIではそうではないものが入ってきて,「工学の数学」という雰囲気が出てきて,生徒が戸惑う場面が多い.

3次方程式の厳密解などを工学で使うことは絶対にないはずである.>3次方程式の解の公式(一般解)

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