2005年4月1日金曜日

0で割れない理論的な(ということは難しい)理由

高校生相手には「0で割るのは定義できない」で済ましている.
これが一番正しいのだが,その理由を説明するには,実数論(体論)の基本的な性質(公理)から「論証する」という形になってしまい,長くなる.
素朴に説明するには,「逆算」を使って「不定,不能」といってしまうことも多い.>以前の記事「0で割る計算,0除算,割り算の意味」

「不定」や「不能」という言葉を使う場面では,割り算を掛け算の逆算として定義しているときである.
つまり
「12=3×4 だから 12÷3=4 と定義」
これは両辺を3で割ったとか,12÷3=4の両辺を3倍したとかいうことではなく,
「=→÷」,「×→=」と単純な記号の置き換えを,「逆算」とした素朴な定義といえる.

この方法では,
「0=0×□ だから 0÷0=□ と定義」
するには□に入る数が「0倍がなんでも0だから定まらない(不定)」
「5=0×□ だから 5÷0=□ と定義」
するには□に入る数が「0倍がなんでも0だからありえない(不能)」
という言葉になるわけである.

素朴でわかりやすいが,実はあんまり正しいとはいえない.


体論の基本性質(公理)から論証で性質を証明していく,現代の数学の立場では,不定でも不能でもない「定義できない」ことが示される.(「いけない」と禁止しているわけではない.「事実」である)
したがって,
「0で割る計算は不定でも不能でもなく,そもそも定義できない」
が最も正しい.

「割ってはいけない」ではなく「割れない」としか言いようがない.
さらに「記号の置き換え」が逆算の基本性質になることは,なおさらない.

基本性質のすべてはあげないが,それにのっとった説明は次のようになる.

まず逆算とは
1.計算で変わらない数,単位元(加法における0,乗法における1)の存在
2.計算で単位元になる2数の存在(加法において a に対する-a,乗法において 0でない a に対する 1/a)
という性質が,基本性質として要請される.

その基本性質から,0倍はなんでも0,
つまりどんな数a でも「0×a=0」であることが示される.
理由
0 は足しても変わらない数だから,0+0=0 といえる.
0×a
の0を0=0+0 で置き換えると,
0×a=(0+0)×a
となる,これを分配法則(これも基本性質)で展開すると
0×a=0×a+0×a
である.
0×a=x
とおくと,
x=x+x
これより x=0,だから0×a=0

つづいて,「積に関する 0 の逆元(0の逆数)は存在しない.」
なぜなら,かけて 1 になる数が 0 の逆数という定義なので,
0×a=1
を満たす数 a が 0 の逆数である.
ところが,今,0倍はなんでも0を示したばかり.
つまり0の逆数は存在しないことが示された.

この上で,逆算は
「aと,bの逆元との演算」
と定義される.
たとえば,引き算は a と,bの逆元(足して0になる)-b との和 a+(-b)である.
割り算は a と bの逆元(かけて1になる)1/b との積 a×(1/b)である.
と定義される.

aを0で割る計算は,a と 0の逆数との積になるが,「0の逆数は存在しない」ため存在しない数との計算は「定義できない」

こうした理由で,不定でも不能でもない.「定義できない」のというのが0で割る計算の本来のあり方といえる.

今までは,「不定」「不能」で煙に巻いたこともあったが,悔い改めることにした.
これからは次のように説明しよう.これなら,体論との整合性もある.

・逆数とは積が1になる2数.(逆数の定義)
・0倍したらなんでも0だから,0の逆数(0倍して1になる数)はない.
・割り算は,逆数をかけること.(割り算の定義)
・5を0で割る計算は,5と「0の逆数」の掛け算だが,存在しない数との計算(掛け算)は定義できない.
・つまり0で割る計算は「定義できない」


まぁ,逆算の意味から「不定」「不能」で煙に巻くのも,「方便」としてOKではある.
真実のみを教えるのが教育ではない.発達段階に合わせて「わかった!」という感覚を持たせることが重要.
そもそも,数学や科学に「真実」はない.あるのは仮説のみ.
0で割る計算も,現在,日常行われている計算ルールの中での話である.教育はすべて真実(と確認されたもの)でなければならぬなら,科学を教えることは不可能.

注意:「0の逆数は存在しない」であって,「1/0 は存在しない」ではない.
aの逆数が存在するとき,「1/aと書く」というルールである.したがって,「1/0」という記述は存在しないものに記法を与える「ルール違反」なので無意味である.


さて,「定義できない」をなぜ「割ってはいけない」と思い違いをする人が多いのはたぶん「ルール違反」が一人歩きしているからだろう.
「数学では、0で割ってはいけないと決めている」
と勘違いしている人はかなりいる.「いけない」と「禁止」していると思う人もいるようだが,そんなことは決めてはいない.禁止しているわけじゃないんだが.
「1/0」と書くことは記法に関する違反であるが,正しくは「定義できない」でよい.
位数1の自明な「体(タイ)」では定義できるのだし.

なお,この問題を関数 1/x の x→0 の極限で考える向きもあるが,筋違い.
なぜなら x→0 とは「x が0以外の値をとりながら限りなく0に近づく」という意味だからである.(手近な教科書で確認すべし.)
つまり x≠0 という前提が x→0 なのであるから,xに0を代入した 1÷0 の議論とは無関係である.
そもそもx>0 で x→0 なら 1/x→∞だが,x<0でx→0 なら 1/x→-∞で極限も確定しない.もちろん,ロピタルの定理なども同じように無関係である. たとえば,ロピタルの定理の一つ, $\lim_{t\to 0}f(t)=0$, $\lim_{t\to 0}g(t)=0$ならば $\lim_{t\to 0}\frac{f(t)}{g(t)}=\lim_{t\to 0}\frac{f'(t)}{g'(t)}$ が,「不定形 0÷0 の極限」という言い方をするので, 0÷0 を決めていると勘違いする人も多い.それを言ったら,微分の定義はすべて0÷0 の極限であるので,すべての微分は 0÷0 である. ロピタルの定理の「不定形 0÷0 の極限」はあくまで, $\lim_{t\to 0}f(t)=0$, $\lim_{t\to 0}g(t)=0$ならば $\lim_{t\to 0}\frac{f(t)}{g(t)}=\lim_{t\to 0}\frac{f'(t)}{g'(t)}$ の略記であり,「0÷0の答え」とは無関係である

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4 件のコメント:

  1. トラックバックのやり方がよくわからなかったので
    ここのURLを自分のブログのコメントの欄に載せました。
    「0で割る」について理解の助けとなりました。
    ありがとうございます。
    事後報告となりますがご容赦下さい。

    返信削除
  2. ありがとうございます.
    で,どちらでしょう・・・

    返信削除
  3. 今更ながらですみません。
    今年になってからもブログを拝見していたのですが
    コメントに返信があったことに気付いておらず・・・。
    一応私が引用したページ(?)を載せておきますが
    私のブログ自体が数学に関係ないと言うか
    なんと言うべきか。
    使われ方が不本意だと思われた場合は言ってくだされば
    私のコメント部分を削除しますので・・・。
    http://blog.youty.jp/blog_user_top_comment.php/49483/?aid=37816

    返信削除
  4. ブログを移転しましたから,気づくのは難しいですね.すいませんでした.
    引用していただきありがとうございます.
    さらに,コメントに名前記述欄がなくてすいません.

    返信削除

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