2009年9月17日木曜日

ベクトルの基本問題

(例題)△ABCにおいて,辺ABを3:2に内分する点をD,△ABCの重心をGとする.
そして,直線DGと辺ACの交点をE,直線DGと辺BCの延長線の交点をFとするとき,比 BC:CF を求めよ.

(回答例1)位置ベクトルの考え方.
$\vec{\mathrm{AB}}=\vec{b}$,$\vec{\mathrm{AC}}=\vec{c}$ とする.

これは,
「Aを原点とする.点Bの位置ベクトルを$\vec{b}$,点Cの位置ベクトルを$\vec{c}$ とする.」
と宣言し,
「平行でない,$\vec{0}$でないベクトルが2本あれば,他のベクトルはすべてその2本で表される」
という考えで問題を解いていく.つまり,登場するすべての点の位置ベクトルを
「$\vec{\mathrm{AB}}=\vec{b}$,$\vec{\mathrm{AC}}=\vec{c}$ を使って」
表すというのが,解き方の方針となる.
三角形の問題の場合,それが空間内であっても.一つの平面内の議論なので2本で足りる.

そして,長さの比を求める場合は,
$\vec{\mathrm{BC}}=x\vec{\mathrm{CF}}$
となる実数 x を求めることになる.

まず,交点Fの位置ベクトルを求める.つまり$\vec{\mathrm{AF}}$ を基本のベクトル $\vec{b}$,$\vec{c}$ で表す.
FはDGの延長なので,D,Gの位置ベクトルを求め,ベクトル$\vec{\mathrm{DG}}$を $\vec{b}$,$\vec{c}$ で表す.
Dの位置ベクトルは$\vec{\mathrm{AB}}$の$\frac{3}{5}$倍だから $\vec{\mathrm{AD}}=\frac{3}{5}\vec{\mathrm{AB}} =\frac{3}{5}\vec{b} $.
Gの位置ベクトルは Aが原点だから
$\vec{\mathrm{AG}} = \frac{\vec{\mathrm{AA}}+\vec{\mathrm{AB}}+\vec{\mathrm{AC}}}{3} =\frac{\vec{0}+\vec{b}+\vec{c}}{3} = \frac{1}{3}\vec{b}+\frac{1}{3}\vec{c}$
$\vec{\mathrm{DG}}=\vec{\mathrm{AG}}-\vec{\mathrm{AD}}$より,$\vec{\mathrm{DG}}$をベクトル$\vec{b},\ \vec{c}$ で表すと,
$\vec{\mathrm{DG}} = \frac{1}{3}\vec{b}+\frac{1}{3}\vec{c} - \frac{3}{5}\vec{b} = -\frac{4}{15}\vec{b}+\frac{1}{3}\vec{c}$
$\vec{\mathrm{DG}}$をのばすと $\vec{\mathrm{DF}}$ になるから $\vec{\mathrm{DF}}=m \vec{\mathrm{DG}}$ となる.
この m が不明の状態で,Fの位置ベクトル$\vec{\mathrm{AF}}$ を$\vec{b},\ \vec{c}$ で表現する.
$\vec{\mathrm{AF}} = \vec{\mathrm{AD}}+\vec{\mathrm{DF}} = \vec{\mathrm{AD}}+m\vec{\mathrm{DG}} = \frac{3}{5}\vec{b}+m\left(\frac{-4}{15}\vec{b}+\frac{1}{3}\vec{c}\right)$
$= \frac{9-4m}{15}\vec{b}+\frac{m}{3}\vec{c}$
これで,準備完了.

線分BCとCF の比は,ベクトルで$x\vec{\mathrm{BC}}=\vec{\mathrm{CF}}$ の実数xを求めればよい.
B,Cの位置ベクトルは$\vec{\mathrm{AB}}=\vec{b}$,$\vec{\mathrm{AC}}=\vec{c}$ とわかるし,Fの位置ベクトルも求まっている.
$\vec{\mathrm{BC}} = \vec{\mathrm{AC}}-\vec{\mathrm{AB}} = \vec{c}-\vec{b} =-\vec{b}+\vec{c}$
$\vec{\mathrm{CF}} = \vec{\mathrm{AF}}-\vec{\mathrm{AC}} = \frac{9-4m}{15}\vec{b}+\frac{m}{3}\vec{c} -\vec{c} = \frac{9-4m}{15}\vec{b}+\left(\frac{m}{3} - 1\right)\vec{c}$
より,
$x\vec{\mathrm{BC}}=\vec{\mathrm{CF}}$
$-x\vec{b}+x\vec{c}=\frac{9-4m}{15}\vec{b}+\left(\frac{m}{3} - 1\right)\vec{c}$
2つのベクトル $-x\vec{b}+x\vec{c}$ と $\frac{9-4m}{15}\vec{b}+\left(\frac{m}{3} - 1\right)\vec{c}$ が等号で結ばれているが,$\vec{b},\ \vec{c}$ は$\vec{0}$でない平行でないベクトルなので,それぞれの係数が等しくなる.
$\vec{b}$の係数 $x = -\frac{9-4m}{15}$,$\vec{c}$の係数 $x = \frac{m}{3} - 1$
これで,$-\frac{9-4m}{15} = \frac{m}{3} - 1$ をとくと,$m=6$
このとき,$x=1$
より $1\vec{\mathrm{BC}}=\vec{\mathrm{CF}}$.
よって,BC=CF から,BC:CF = 1:1

以上,教科書どおりベタベタに解くとこんな感じだが,mを求めるところ,「直線BC上にある」⇔「BCの内分or外分点である」ということを使うと,文字 x は不要になる.

BC をm:nに内分する点の位置ベクトルは
$\frac{n}{m+n}\vec{b}+\frac{m}{m+n}\vec{c}$
この係数を足すと,
$\frac{n}{m+n}+\frac{m}{m+n}=1$
BC をm:nに外分する点の位置ベクトルは
$\frac{-n}{m-n}\vec{b}+\frac{m}{m-n}\vec{c}$
この係数を足すと,
$\frac{-n}{m-n}+\frac{m}{m-n}=1$
つまり分点の位置ベクトルでは係数の和が1になるが,逆に,係数の和が1ならば,内分点または外分点を表すから,これを用いる.

FはBCの外分点なので,係数の和が1とわかるので,
$\vec{\mathrm{AF}}=\frac{9-4m}{15}\vec{b}+\frac{m}{3}\vec{c}$ の係数の和
$\frac{9-4m}{15}+\frac{m}{3}=1$
から
$m=6$
が得られ,スマートに記述できる.
そして,最後のところも,$m=6$から
$\vec{\mathrm{AF}}=-\vec{b}+2\vec{c}$
となり,Fの位置ベクトル
$\vec{\mathrm{AF}}=\frac{-\vec{b}+2\vec{c}}{2-1}$
は外分点 $\frac{-n}{m-n}\vec{b}+\frac{m}{m-n}\vec{c}$ の形になり,
FはBCを2:1に外分
となる.
よって,CはBFの中点だから BC=CF

位置ベクトルの語を出さなくても,考え方は位置ベクトルを使っている.
そして,分点の性質を有効に使うということ.

さらに,論述式解答ではなく答えの数字を解答欄に書くだけのテストなら,次のようなズルもできる(裏技というほどではない).

一般の三角形に成り立つことは,特殊な三角形でも成り立つから,つぎのように計算しやすい座標を取って考えるのである.

Aを原点,B(1,0),C(0,1)と座標をとる.
$\mathrm{G}\left(\frac{1}{3},\ \frac{1}{3}\right),\ \ \mathrm{D}\left(\frac{5}{3},\ 0 \right)$
より直線DGの方程式は
$y=\frac{\frac{1}{3}-0}{\frac{1}{3} - \frac{3}{5}}\left(x-\frac{3}{5}\right) = \frac{-5}{4}x+\frac{3}{4}$
より y切片 E が $\frac{3}{4}$.
BCは $y=-x+1$ だから DGとの交点は
$frac{-5}{4}x+\frac{3}{4}=-x+1$
を解いて,
$x=-1,\ y=2$ より F(-1,2)
長さの比をなので,「BCの長さはピタゴラス?」という気もよぎるが,実際に求める必要はなく,
B(1,0), C(0,1), F(-1,2)
の x座標だけ(あるいはy座標だけ)に着目すると,BC:CF = 1:1
がわかる.(三角形の辺の比の性質)
実際,Fを通り,ACと平行な直線とBAとの交点をPとし,三角形BPFを考ると,AC と PF は平行なので,BC:CF = BA:AP となる.

Aが直角であることや AC=AB=1 など,この三角形特有の性質を使わなければ,この方法で答えが異なることはない.

一般の図形から角度や長さの性質を無視したものをアフィン空間という.>wikipedia
このように,内積や大きさを使わないベクトルの図形問題はアフィン空間のよい例である.

さらにいうと,ベクトル$\vec{b},\ \vec{c}$を使った位置ベクトルにおいては,$\vec{b},\ \vec{c}$ の係数が直交座標で考えたときのx座標,y座標に当たるといえる.
$\mathrm{F}(-1,\ 2) \Leftrightarrow \vec{\mathrm{AF}}=(-1)\vec{b}+2\vec{c}$

裏技があっても,裏技というものは,正攻法ができる学力のある者ならパワーになるが,そうでない者が手を出しても理解できないし,形だけを真似して火傷をするw

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