2013年12月13日金曜日

補助翼

自動車はステアリングひとつで左右に向きをかえる.

飛行機が向きをかえるには,補助翼(エルロン)で機体を傾けたら補助翼を元に戻し,バンクしたまま昇降舵(エレベータ)を引いて主翼で旋回する.*1
旋回が終われば,補助翼を逆に切って水平に戻すとともに昇降舵も元に戻す.
オートバイは,傾けるだけで旋回力が発生する(もちろん円周にそって前輪の向きも変える)が,飛行機はバンクした機体によって主翼に旋回力を発生させる.
自動車のステアリングは旋回中はずっと切ったままだが,飛行機の操縦輪は最初のバンク時に切って目的のバンク角になったら中立に戻し*2,旋回が終わったら操縦輪を逆に切って機体を水平に戻す.
操縦輪を自動車のように切ったままだと,機体が裏返ってしまう.

方向舵は横滑りするようならちょっと当てるくらい.
そのネーミングから,これで旋回すると思う人は多いだろうな.方向舵は,進行方向を決めるものではなく,機体の向きをコントロールするだけのもの.方向舵だけを切って機体の向きを変えても,機体は横滑りするだけ.
実際の用途は横風などに対応するくらいのもので,上記のように旋回時には殆ど操作しない.
戦闘機の空中戦は操縦桿1本で,エルロンとエレベータを操作して機体をコントロールする.
たまには方向舵を一気に切って,意表をつく機動もあったろうけれど,それはイレギュラーなもの.(そんなことをしたら,抵抗が増して運動エネルギーが落ちて,下手をすると餌食になる.)

さて,昔から疑問だったのが,
「補助翼って何を補助しているの?これも舵の一つじゃないの?」
「補助翼」というネーミングから受ける印象は,何か付録のような,あまり重要でない感じだけれど,上記のように,昇降舵と合わせて,機体のコントロールでは最も重要な舵である.それなのに,エルロンを「補助翼」と訳したのはどういうことだろうと思っていた.

飛行機物語 ─航空技術の歴史
を見ていたら,まさに「主翼の補助」という写真が出ていた.
同じものではないが,ネットにあったカーチスの画像.
Curtiss-Herring, Golden Flyer, 1909 >CURTISS ALBUM 1909 から拝借
エルロンはフランス語で「小さい翼」という意味らしい.これなら「小さい翼」だ
「飛行機物語」によれば,これはライト兄弟の「ねじり翼」の特許を避けるために,設けたということだ.
「補助翼」というネーミングにも納得.
補助翼で機体を傾けた後は,昇降舵を引いて,旋回するのである.

ライト兄弟の「ねじり翼」は,主翼をワイヤーでねじって変形させるもので,主翼そのものが機体をロールさせる舵であった.
カーチスのゴールデンフライヤーは,主翼を固定する代わりに,補助翼を別に取り付けたわけだ.


ライト兄弟はその特許にこだわり,「ねじり翼」方式は淘汰されてしまったらしい.
そもそも,「ねじり翼」は後の時代の単葉機には使えないだろう.

カーチは後発ではあったけれど,「補助翼」とかプロペラ直結のエンジンとか現代に通じる技術で生き残ってゆくわけだ.

*1 正しくは,機体を傾けただけで主翼が旋回力を発生する.
水平飛行しているときは,1G の揚力が主翼にかかっている.

それを,30度バンクすれば揚力 1G の方向が 30度傾き,垂直方向の揚力が 0.866G に減り,バンクした方向に 0.5 G の旋回力が発生する.

垂直方向の揚力が減るのでそのままでは高度が落ちてしまう.そのため降下しないように昇降舵を引いて,垂直方向の揚力を 1G にすれば,旋回力が 0.577G となる.

旋回はあくまで,「主翼」が担うのであり,操作するのはエルロンとエレベータである.
水平飛行から90度バンクさせれば,揚力が水平方向に働き,1Gの旋回が始まると同時に,機体は自由落下を始める.ここで強く昇降舵を引けば自由落下しながら急旋回できる.


*2 バンク状態でエルロンを中立に戻すと,機体の持つ安定性で数分後には水平に戻ってしまうから,バンクを維持するためにかすかにエルロンを切り続ける必要はある.特に大型機が数分かけて旋回するときなど.
1分以内に旋回が終わるなら関係ない.

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