2000年11月18日土曜日

ダイヤモンド合成



今日は PTA 研修委員会主催の「自然科学公開講座」で東海大学の広瀬洋一先生をお呼びしました.先生は1986年に「酒からダイヤモンドの合成」で脚光を浴びたダイヤモンド合成の第一人者です.
講座でははじめ世界中の美しい有名なダイヤモンドの写真を見せながら,ダイヤモンドの歴史を紹介してくれました.世界最大のダイヤはインドで発見された 3100カラットで現在イギリス王冠についている.宝石のブリリアントカットは数学者が「すべての光を反射する」ようにデザインしたということです.
色のついたダイヤは炭素のほかの微量元素が原因.窒素が入ると黄色,ホウ素が入ると青,ニッケルが入ると緑.しかし今世界に6個だけ赤いダイヤがあって,何がダイヤを赤くするのかはまだわかっていないそうだ.

ダイヤモンドの性質は「硬い」「すべての光をよく通す」「どんな液体にも溶けない安定性」その他,工業用として非常に有用な物質だそうです.硬いというこ とでトンネルの岩盤を削る機械に取り付けられたり,研磨剤にも使われている.すべての光をよく通す性質から,ランドサットのレンズは2億円のダイヤを使っ ているそうです.



で,このように有用なダイヤをなんとか合成できないかという研究が昔から行われていました.自然界の ダイヤはすべて地中深く5万気圧以上の高圧で炭素が結晶になったもの.これをGeneral Electric社が1955年に5万気圧を実用化し初めてダイヤ合成に成功.ダイヤの合成というものは「高圧」が常識だった.
ところが 1982年熱フィラメント化学気相合成法という超高圧を使わないで合成する方法が日本で開発された.これはメタンガスを熱フィラメントのエネルギーでメタ ン CH4 の炭素と水素を切り離し,炭素をダイヤモンドの結晶に成長させるというもの.ほとんどの炭素は黒鉛になってしまう.それを除去するために大量の水素を送り 込み,黒鉛をメタンなどの気体にして,ダイヤを残すという方法.水素が少なければ黒鉛ばかりになるし,多すぎるとダイヤモンドも除去されてしまう.そもそ も水素という危険なガスを大量に使うため装置が大掛かりになりすぎる.また,超高圧ではないけれど,1気圧でできたわけでもない.
そこで広瀬先 生は「酸素で黒鉛を除去できないか?」と考えた.当時,「酸素なんか使ったらみんな CO か CO2 になってダイヤも消滅してしまう」と誰も相手にしなかったそうだ.酸素を気体で吹き込めば,炭素はすべて燃えてしまうが,はじめから酸素を持ったアルコー ルを使ってはどうだろうか,というのが先生の独創性.
で,1986年「エタノール(酒)と少量の水素でダイヤモンド合成」に成功し,新聞記事に なった.先生としては「1気圧でできた」を強調したかったところが「酒からダイヤ」のほうで有名になったと苦笑していました.本物の酒では「いいちこ」が 一番きれいな結晶になるそうです.ビールは難しいけどできたといってました.

1気圧でできたのなら,中高生でも可能ということで,この 方法は教科書にも掲載されました.経費も数千円程度の実験器具でできるということでしたが,日本全国で実際に実験したのは20例だけ.というのも「危険な 水素」を使うのがネックになりなかなか実験まで踏み込めないということらしい.そこで水素を使わない方法を研究し,メタノールを使えば水素を使わずダイヤ モンドを合成することが可能であることを突き止めた.
それが教科書に掲載され,とても安く安全にできるようになったそうです.空き瓶を拾ってくれば瓶代はただになるから,今では500円程度の器具でダイヤが合成できる.


ダイヤモンド合成中 > 実験方法

さて,先生はこれらの研究から得た教訓として
1.基礎の大切さ
2.何が原点で何が本質かを見抜く力
3.壁にぶつかったときに原点に戻って考え直すことの重要さ
を学んだと,おっしゃってました.ノーベル賞を受賞した白川教授も「ミスから新しいものができた」わけで,そのときミスの結果を見て「本質を見抜く力」で新しいものが見えた.広瀬先生も酸素は使えないという常識を覆して成功したわけだ.

私もその道の第一人者のエネルギーを見ただけでも,有意義なひと時でした.

最後に広瀬先生のメッセージ「大学進学希望者へ」
21世紀は「エネルギー」「環境」「医療」「情報」「食料」の分野が重要になると予測しています.したがって,これらの諸問題を解決するためには,若いフ レキシブルな頭を持ち,失敗を恐れない勇気をもって臨んでもらいたいものです.諸外国から,日本は物まねばかりやるという批判があります.私個人は,日本 には独創性が育つ環境が少ないと思いますが,壁にぶつかったときに基本に返ること,自然を先生として学ぶ姿勢を持てば,必ずや,独創的な研究ができるもの と信じています.
本日の講演を聴いた諸君の中から,世界に通用する技術者や研究者が出ることを心から願っています.

広瀬先生の研究室のHPはこちら http://bosei.cc.u-tokai.ac.jp/~hirose

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