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内容は,授業の「お話」をどれだけ,自分のものにしているか?というもの.問題を解く力ではなく,「どれだけ数学的概念が言語化されているか」というものを試している.卒業生(浪人中)のNくんは,「去年授業でよい成績とれずに悔しかったからテストを受けさせてほしい」ということで,このテスト問題に挑戦した.私の授業を受けていないぶん,現役生よりハンデはあるが,それなりに言語化されているのはさすが浪人生で,得点も17点で現役生の平均点に近く,偏差値も 49.1 である.
現役生に対しては,テスト後すべて解答をレポートにして提出することを義務付け,その出来によって「満点に足りない得点の半分を挽回する」ということにした.
数学III抜打ちテスト
(50分)12問あるので配点は1問 100/12=8.333
117人受験,平均 18.624 標準偏差 18.49
- 「写像」と「対応」の違いについて説明せよ.
- 命題「ある区間 (a-p, a+p) をとれば区間内のすべての x について f(x)≦f(a)」 の否定命題を述べよ.
- 有界と無限小を定義せよ.
- lim x = α を「無限小」という言葉を用いて定義せよ.
- 無限小と無限小の和が無限小であることを用いて,
lim(x+y) = lim x + lim y を示せ. - 数列 (1 + 1/n)^n の極限や, 2^(√3) の存在を保証する数列の定理は どのようなものか述べよ.
- 「1/n は正の数,正の数は0ではないのに 極限が 0 であるのは納得できない.」 という人に対してどのように説得しますか.
- 「はさみうちの原理」を書いてください.
- lim(x→0) (sin x / x) = 1 の図形的意味を説明せよ.
- 関数の連続を定義せよ. またその定義のセンスはどんなものか.
- 最大値の定理を正確にのべよ.
- 中間値の定理を正確に述べよ.
卒業生 N君の答
写像ってのは2つの集合 A, B っていうものがあり, A の内の1つの要素が B の内に1つと組になっていること.対応はなっていない場合,つまり A∋x, A∋y, B∋a について xとa, yとa もOK ということN君の解答はなんとなく言おうとしていることはわかるが,正確さには欠けている.数学のテストである以上,ある程度の正確さを要求するため,この解答は0点である.
解答例1
集合 A, B に対し A の要素おのおのについて, B の要素がただひとつ対応するとき,A から B への写像といい, ただひとつに限らないのが対応高校生ならこの程度で正解とした.
解答例2
集合 A, B の対応とは {(a, b)| a∈A, b∈B} の部分集合, 集合 A から B への写像とは「 {(a, b)| a∈A, b∈B}の部分集合で, 『(a, x), (a, y) ならば x=y』を満たすもの」かなりテクニカルな解答.2人の生徒がこのように答えた. よく理解し,記号等の使い方も的確である.
結果
○ 41人 △ 16人 × 60人卒業生 N君の答
任意の値 x において f(x)>f(a) が成り立つならば区間 (a-p, a+p) はとらない.これは授業で論理の言葉「すべての~」,「ある~」を解説した.その使用法の問題である.授業を受けていない N君には無理. ∀(すべて),∃(ある),¬(否定)の記号を使えば,ド・モルガンの法則 ¬∀x P(x) ⇔ ∃x¬P(x), ¬∃x P(x) ⇔ ∀x¬P(x) が 使える使えるかどうかの問題.ちなみにこの命題は「極大」の定義である.(f(a) が極大値.不等号の向きを変えれば極小) そしてその否定命題は「極大でない」ことの表現になる.
解答例
機械的にド・モルガンの法則を適用すれば,すべての区間(a-p, a+p) について区間内のある x について f(x)>f(a).もうすこしこなれた言い方をすれば, どんな区間(a-p, a+p) をとっても,区間内にある x が存在して f(x)>f(a).
結果
○ 8人 △ 4人 × 105人卒業生 N君の答
有界とはある値を表す方程式 f(x) の x をある値に近づけたとき全てに f(x) が収束する場合,f(x) は有界であるという.無限小とは f(x) の x をある値 a に近づけたとき f(x) が負方向に限りなく小さくなっていく場合 f(a) は無限小という.これも授業を受けていなければ当然無理.ただし,無限小は「負の無限大」とは違う.いくらでも0に近い状態である.それをいかに言語化するか.
解答例
変数 x が有界とは,ある正の数 M が存在して |x|≦M が成り立つことである.変数 x が無限小とは,任意の正の数 ε について |x|<ε とできることである.このような問題ではいかに「主語を補うか」ということがポイント.単に言葉の説明ではなく,用語の用法までを定義しなければならない.
結果
○ 5人 △ 21人 詳しく解説した無限小だけ書けた者が多かった. × 91人卒業生 N君の答
白紙.解答例
x-α が無限小.無限小という言葉を使わなければ, 「任意の正の数εについて|x-α|<εとできる.」
結果
○ 18人 △ 4人 × 95人卒業生 N君の答
白紙.解答例
lim x = α,lim y = β とすると lim の定義から x-α が無限小, y-β が無限小. 無限小と無限小の和が無限小であるから (x-α)+(y-β) も無限小. (x-α)+(y-β) = x+y-α-β = (x+y)-(α+β) が恒等式であることから, (x+y)-(α+β) も無限小 再び lim の定義から lim (x+y)=α+βつまり lim(x+y)=lim x + lim y.結果
○ 11人 △ 1人 × 105人卒業生 N君の答
(1+1/n)^n の極限は e (自然対数)この極限が自然対数の底 e であることは当然のことながら 知識として持っていなければならない.しかしこの問題の意味は 授業を受けていなければ,まったく不明だろう.
解答
定理:上に有界な単調増加数列は収束する.数列 (1+1/n)^n は単調増加数列であり,上に有界な数列であることが 示され,この定理によって極限値の存在がアプリオリに保証されるのである. そして存在が保証される極限値を使って定数 e が定義される. 有理数の指数 2^(m/n) は n乗 して 2^m になる正の実数ということで 定義される.それを使って, 数列 2^1, 2^1.7=2^(17/10), 2^1.73=2^(173/100), 2^1.732=2^(1732/1000) … を定義するとこの数列は単調増加で,つねに 2^2 より小さいので上に有界である. したがって,極限値が存在する. そして指数部分は √3に収束するから存在が保証されたこの数列の極限値を 2^(√3) と名づけるのである.
結果
○ 0人 △ 1人 × 116人 さんざん授業で念を押したのだけれど,忘れられたようだ. (1+1/n)^n の2項展開までしてくれた人もいたのだが, 筋違い.卒業生 N君の答
極限というものは n を無限大にもっていった時に, 限りなくその値に近づくってことだから n=10^753 とか入れてみろ 1/10^753=0.00…001 とかになって,正の数だろうが!! n=∞になっても 0 に近づくけど 0 になるわけがない. なぜなら 1/0 というものは定義されてないから!解答例1
極限とは定数に近づくこと. 定数は目標であるので、一致する必要はない.解答例2
1/n は 0 との差が無限小である.なぜなら任意のε>0 について 十分大きい p をとれば pε>1 とできる. このとき n>p なるすべての自然数 n に対して nε>1 より, 1/n<εとできるので,1/n は無限小. よって,1/n-0 も無限小なので,1/n と 0 との差が無限小といえる. したがって,1/n の極限 0.このように解答した生徒も複数いた. ちなみに正の数 a, b について a<b 十分大きい正の数 p をとれば ap > b とできる.というのはアルキメデスの原理という.
結果
○ 37人 △ 14人 × 66人卒業生 N君の答
f(x)<g(x)<h(x) という関数を考えてみる. lim f(x)=a, lim h(x)=a とするならば, a<lim g(x)<a,lim g(x)=a となる.だいたい言おうとしていることが合っていそうなので,△. a<lim g(x)<a という記述が矛盾している.
解答例
x→p でも x→+∞ (-∞) でもいいし, 数列なら x が自然数で x→∞ と考えて, f(x)≦g(x)≦h(x) かつ lim f(x)=lim h(x)=a ならば lim g(x)=a.f(x)≦g(x)≦h(x) は f(x)<g(x)<h(x) であっても成り立つ.
結果
○ 34人 △ 11人 × 72人 教科書でなんども述べられているので,○が多い.卒業生 N君の答
関数 sin x と x が x=0 に近いところで同じ値をとる!!解答例
円の弧の長さとそれに対応する弦の長さの比は, 中心角が小さければ,ほとんど1である.結果
○ 30人 △ 11人 × 76人卒業生 N君の答
関数 f(x) の連続性を考える. ある任意の点 a において f(a) は微分可能であるということ.…?微分可能は連続であるための必要条件. 「センス」とは授業中に説明した事柄だから,できなくて当然.
解答例1
定義:関数 f(x) が x=a で連続であるとは, (1) 関数が,x=a で定義され, (2) x→a のとき f(x) の極限が存在して, (3) その極限と関数値が一致する.すなわち lim f(x)=f(a) センス: 関数 f(x) において,x=a に 近い点がいくらでも f(a) に近い点に写る.とき,x=a で連続.とりあえず,こんなところ. lim を使って定義されているということは f(a) の周辺の点に関する 内容になる.
解答例(センス)
近い点が近い点に写る.結果
○ 4人 △ 26人 センスだけの者のほうが多かった. × 87人卒業生 N君の答
最大値の定理は a≦x≦b の閉区間において, f(x) は最大最小を持つということ. a<x<b の開区間では,f(x)はもつかどうかわからない.おしい.重大な前提,f(x) が連続であることが述べられていないので,×.
解答例
閉区間で連続な関数は,その区間内で最大値を持つ.f(x) が最大値を持つことから,-f(x) が最小値を持つことがいえるから, 最小値の定理はこの定理と同値な定理である.
結果
○ 9人 △ 0人 正確でないものは× × 108人卒業生 N君の答
関数 f(x) が a≦x≦b という定義域の中で 連続でかつ微分可能なとき, {f(b)-f(a)}/(b-a)=f'(c) となうような点 c が必ず存在するという定理.あれれ,これは(不正確な)微分の平均値の定理だよ.×. 連続はいいけど,開区間で微分可能と直して,c が開区間内であるとすれば, 正確.だけど,中間値の定理ではない.
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