2012年11月22日木曜日

SSBの波形

CQ誌12月号の記事に60年前の雑誌の表紙の「SSBのオシロスコープの波形」ってのが出ていたけれど,本当はあんなふうにならないよね.
「両側波帯の片側を切り落とした単側波帯だよ」
と強調するにはインパクトのある画像だとは思うけど,あれは正弦波をダイオードなどで,整流しただけのもの.
スペクトルの片側を切り落としたからといって,波形の下半分が切り取られるわけではない.
まぁ,60年前,雑誌の表紙を新しい技術でセンセーショナルに飾るために,作ったものなのだろう.
記事はとてもおもしろかった.

以前,AM変調のことを書いた時に,SSB についてもちょっと触れた.
以前の記事

その時,サイトには載せなかったけれど,いろいろ画像にしてみたので,載せてみる.

AM変調は正弦波での変調でも,わかりやすいが,SSBを正弦波で変調しても,搬送波の周波数がシフトするだけ.グラフにしてもさっぱり雰囲気が出ないので,単純な正弦波と,いろんな周波数成分を含む音声信号での波形をつくって,変調波をグラフにしてみた.

まずは元になる信号.

スペクトル表示.


これらで AM変調をかけるとこうなる.




高周波が,周波数の低い音声信号で震わされているのがわかる.(赤い包絡線に元の信号が見える。)

無線通信の始まりは,モールスであったが,それは発振器で作った電波をスイッチで断続させるだけという極めて単純なものだった.>以前の記事
次に単純なのがこの AM変調.発振器の電源にマイクをつないで,「電波の電源を震るわせれば,電波が震える」という原理は極めて単純なもの.
さらに,受信側も,鉱石に針を乗せるだけで音声が聞こえるという,原始的な方法で受信可能で,安く作れるから,現在でもラジオ放送で使われている.
鉱石検波器
航空無線もAMなのは,単純な機械で信頼性が高いからだろう.なにせ,発振器の電源にマイク突き刺せば原理的には通信できるのだから.

そうえいば,発光ダイオードの電源をマイクで拾った音声で震わせ,その光を太陽電池で受けてそれをアンプにつないで「光通信」という実験をテレビで見たことがある.これも光の AM 変調.


さて,これを SSB にするには,数式変形が必要.
まず,AM の帯域を調べるために,三角関数の「積を和に直す公式」で変形してみる.

正弦波の方だけ書いてみると,
(sin x + 2)sin100x
=sin x sin100x + 2sin100x
この sin x sin100x の積を和に直すと,

積が和になったところで恒等式なので,当然同じ波形.
でも,和に直してあるから,搬送波 sin(100x) に対して,cos(100±音声周波数)x の成分が現れているのがわかる.この 搬送波±音声周波数 が側波帯である.
スペクトルを表示すると,その様子がよくわかる.


さて,搬送波 sin(100x) には音声成分が入っていなので,通信には不要.
これをカットするのが,平衡変調とかリング変調である.
これは単純に sin(100x) の項を削除したものとなり,その波形は次の通り.



スペクトル表示.


さて,左辺は搬送波 sin(100x) を削除しただけだが,それを再び「和を積に直す公式」で変形すると右辺となる.
見るとわかるのが,「音声×搬送波」の形をしている.
搬送波をどうやって抑圧するのかと思うけれど,音声を搬送波の周波数で切り刻む感じである.(赤い包絡線に元の信号が見える。)
音声の振幅の(プラス側にもマイナス側にも)大きなところの搬送波の振幅が大きい.

さらに,DSB は cos(100±音声周波数)x の成分があるが,片方だけで音声は伝えられる.
これをフィルタで「片側だけ」切り取って通信に使うのが,SSB といえる.決してAMの振幅の「下半分」を切り取るわけではない.そんなことしたら,復調してしまうし.(笑)
cos(100+音声周波数)x が USB,cos(100-音声周波数)x が LSB と呼ばれる.

スペクトル表示.

もとの音声の波形とはだいぶ違う.包絡線を見ても元の信号が見えない。
特に,正弦波の変調波は,変調されているようにはみえない.でも,「搬送波より音声周波数分だけずれている」ことが変調なのである.
これらは,音声から作られた波形なので,受信側で, sin100x を合成すれば,元の AM となり,音声が再生できるという寸法.



片側の側波帯だけで,元の AM が再現できるのがわかる.これの包絡線つなぐという昔からの復調行えば,音声が再生できる.

それも,AMの半分の半分の帯域だから,2倍の通信量を確保できる.
音声信号の波形を見ると,波の数は SSB は DSB の半分になっている。これは帯域が半分になっていることを示し,SSB を AMで受信すると「モガモガ」と低く聞こえる理由でもある。

AMでは送信出力の大半を搬送波に使うが,SSBではパワーの 100% 通信内容に使い,さらに帯域も半分で済む.すごい技術.

記事によれば,
「側波帯の存在が,搬送波とは別個のものとして初めて認識されたのは,1914年.計算による結果だった
という.つまり,上記の「三角関数の積和公式」ということだろう.抽象的な計算で気づくというのはまさに数学の力である.
計算上気づいても,それをどうやって現実の機械として実現するかは別問題.
記事ではそのへんの歴史に触れられていて,とてもおもしろかった.

こんなこと考えた人や,それを実現した昔の技術者はすごいなー.

ついでに,FMのステレオ放送も,三角関数の和積公式でうまいことやっている.
三角関数の積を和に直したり,逆にする公式は「公式のための公式」のような感じがして,「いったい何に使うの?」と言う気になるが,現代の通信技術を支えている.

2022年10月12日追記
HAMworld 2022年11月号の記事に,こちらの図を使っていただきました。> 引用

3 件のコメント:

  1. わかりやすい図解と解説ありがとうございます。30余年のモヤモヤが一気に晴れた気がします。SSBって三角関数で解けるのですね。それに気づいた100年前の先輩は流石です。

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  2. じっちゃん2020年7月18日 11:45

    DSBの波形は見たことがありますが、SSBはどんなだろうって思ってました。これを見て、あ!そうか!と納得しました。側波帯が計算で発見されたというのも大変興味深かったです。ありがとうございました。

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  3. JA4ENZ(新谷稔)2021年10月4日 11:11

    昨年から30年ぶりの再開局で、古い無線機の修理を楽しんでいます。
    ハムだからとツートンテスト等の調整を雰囲気で行っていましたが、数式・波形で理屈をわかりやすく解説していただき、少しスキルアップできそうな気がしています。恥ずかしながら長く無線従事者の仕事をしていましたが赤面の至りです・・

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